フィレンツェのPalazzo Medici Riccardi(メディチ・リッカルディ宮殿)内にある、MUSEO DEI MARMI(大理石美術館)にて現在”Where Pain Becomes Beauty”=「痛みが美しさに変わるところ」というテーマの、イラク人彫刻家Athar Jaber(アザール・ジャベル)の彫刻展が開かれています。
なぜ、展覧会のテーマが「痛みが美しさに変わるところ」かというと・・・。
例えば、こちらの彫像。今回の展覧会のメイン作品なのですが、彫刻の正面に立って左側から見ると、ツルツルっとした質感の女性の肌が表されています。素材はポルトガルのオーロラ・マーブル。この彫刻を反対側の右側から見ると・・・
一瞬「13日の金曜日」のジェイソンを思わせるような、ゾッとする雰囲気に息を飲みます。しかし、左側から見るツルツルっとした横顔よりも、圧倒的な存在感があります。思わず引き込まれるような美しさを次第に感じるようになります。
この作品は、「酸」を彫刻にかけて石にダメージを与えて制作されました。まるで、人の肌が酸をかけられ溶けてただれたように見えます。酸を浴びた「痛み」が「美しさ」に昇華される様子を表しています。
他にも、彫刻を銃で打ち砕いて制作された彫像など、バイオレンスとアートが融合された独特の世界観が繰り広げられています。この世界観が生み出される背景には彫刻家、Athar Jaber氏の生い立ちが関係しています。
Athar Jaber氏のホームページによりますと、Jaber氏は1982年にイタリア・ローマで生まれました。両親はイラク人です。
イラクといえば、誰でも記憶に残っている湾岸戦争。Jaber氏はローマ生まれ、フィレンツェ育ちとはいえ、やはり湾岸戦争のイメージが常に自身についてまわったようです。そのため、苦しみや暴力といったテーマはJaber氏には避けることのできないテーマとなりました。一方で美しい古都フィレンツェで育ったことで、Jaber氏は古典美術への理解を深めることができました。
こうした生い立ちから、Jaber氏は、美しさと暴力という対照的なものの探求を続け、このことは彼のアーティストとしての成長に重要な役割を果たしたとのことです。
Jaber氏は現在はベルギーのアントワープに住み、ベルギーの王立芸術アカデミーにて彫刻の教授、彫刻家として活躍を続けています。Jaber氏のホームページはこちら。
展覧会の後は、会場のPalazzo Medici Riccardi宮殿の見学もお忘れなく。特に見どころは二回にある礼拝堂。Benozzo Gozzoli(べノッツォ・ゴッツォリ)のフレスコ画が壁一面に描かれていて圧倒されます。
Athar Jaber氏の彫刻展は2015年7月31日まで開かれています。暴力と美しさが融合されたJaber氏の世界観をお楽しみください。
Palazzo Medici Riccardi(メディチ・リッカルディ宮殿)
住所: Via Cavour 3, 50123 Firenze
開館時間: 9:00-19:00(最終入場は18:30)
休館日: 水曜日
入場料: 7ユーロ(13歳以上)4ユーロ(6~12歳、15人以上の団体など)
HP: http://www.palazzo-medici.it/
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