宅ふぁいる便コラム「イタリア発、美食通信」第7回掲載
大容量ファイル転送サービス「宅ふぁいる便」で連載中のコラム「イタリア発、美食通信」第7回が5月9日アップされました。「連載企画」ページ内にある、「SAKEto(酒と)」で掲載されています。
今回は「イタリアに日本酒ブーム到来?!」
今回の内容は、「イタリアに日本酒ブーム到来?!」。ワイン大国のイタリアでは残念ながら日本酒の知名度はまだまだ低く、スーパーなどで見かけることもありません。ですが、最近になって和食ブームの到来とともに少しずつ日本酒を広めようとするムーブメントが見られるようになりました。さて、ワイン好きのイタリア人にとって日本酒の感想は?
宅ふぁいる便コラムVol.7 by小林真子
Vino della casa(ヴィーノ・デッラ・カーザ)
イタリアのレストランで、「せっかくイタリアで食事するのだから、ちょっと地元のワインも飲んでみたいなあ。でもワインに詳しくないし、何を頼んだらいいのかわからない・・。あんまり高いのも心配だし。」と悩んだことはありませんか。日本のイタリアレストランなら、ウェイターにお勧めを尋ねることができますが、イタリアでは言葉の壁が立ちはだかります。さて、そんな時に覚えておくと便利なのが、“イタリアのレストランで使えるお酒にまつわるイタリア語”の第二回目、「Vino della casa(ヴィーノ・デッラ・カーザ)」です。Vino(ヴィーノ)はワイン、casa(カーザ)はハウス、つまり「ハウスワイン」のこと。ハウスワインとは、レストランが独自に選んで勧めるワインのことですが、イタリアのカジュアルなレストランやトラットリアなどでは、たいていの場合ハウスワインがあります。一般的にレストランの中で最もお手頃な価格のワインで、トスカーナのようなワインの名産地だと必ず地元のワインが提供されます。ですから、イタリアのレストランで悩んだ時はこれ、「Vino della casa(ヴィーノ・デッラ・カーザ)」を覚えておくと便利ですよ!
(※高級レストランの場合はハウスワインがほとんどなく、ワイン・リストから選ぶ必要がありますのでご注意を。)
今回のお酒の話題は、ワインから少し離れて「フィレンツェに日本酒ブーム到来?!」事情をお伝えします。イタリアでは「SAKE(サケ)」と呼ばれ、昨今の和食ブームにともなって日本酒への注目度も少しずつ高まっています。フィレンツェでは、日本酒をベースにしたカクテルを提供する日本酒BARの第一号店が昨年末にオープンしました。週末ともなると、イタリア人たちで満員になるほど盛況なのだとか。
そうはいっても、和食レストラン以外では、フィレンツェでお酒を見かけることはまだほとんどありません。「日本酒を飲んでみたいけど、どこに売っているかわからないし、売っていたとしてもそもそも味がわからないのにボトルで買うのもなあ・・」というのがイタリア人の心情。まずはそんなイタリア人にお酒を試飲してもらい、日本酒の良さを知ってもらおうというイベントがフィレンツェで次々と開かれています。
私はフィレンツェのFMラジオ局で5年前からレギュラーパーソナリティーを務めていますが、番組のリスナーだというMARCO LENZI(マルコ・レンツィ)さんというフィレンツェ市民のイベントコーディネーターからこんなイベントのお誘いを受けました。イベント名は「イタリアと日本がテーブルで出会う」。内容は、「イタリア料理を楽しみながらの日本酒の試飲会」といったもの。イタリアではなかなか美味しい日本酒を飲む機会が無い上に、イタリア料理との融合とあれば行かない理由はありません!もちろん即答の上、参加してきました。
主催したのは、お酒を世界に広めようという日本の団体「Sake on the Table(サケ・オン・ザ・テーブル」と、フィレンツェに数か月前にオープンしたばかりのイタリアのBAR&トラットリア「Italian Tapas(イタリアン・タパス)」。宮城県塩釜市から蔵元「浦霞」が招かれイベントが催されました。
参加者たちはイベントの告知を見て日本酒に興味を持った人、または日本酒好きの人たちで、40人ほどが集まりました。そのほとんどはイタリア人。一般参加者の参加費用は、「日本酒のカクテル、浦霞の日本酒2種の試飲、イタリア料理のおつまみ合計4種(2皿)」がついて15ユーロ(約1800円)。
浦霞の「萩の白露」をベースにしたウェルカムドリンクでイベントは始まります。カクテルは生姜がしっかりきいたスパイシーな味わい。カクテルを飲みながら、まずは浦霞による蔵元とお酒のプレゼンテーションが行われました。
日本全国に現在1300ほどある蔵元。そのひとつの浦霞は1724年に設立された蔵元で、現在は13代目が継いでいます。「浦霞にひたってもらえるようなほのぼのしたお酒、品格ある酒づくり」を目指して酒造りをしているそうです。
多くの蔵元ではお酒造り用のお米を使っていますが、浦霞ではササニシキなどあえて普段食べる白米を使っているのが特徴。浦霞いわく「エレガントでクラシック。食事中に楽しめるお酒です。」
ワインの国に住むイタリア人にとって、興味があるのはワインと日本酒の違い。浦霞によると「ワインは毎年、ブドウの出来で品質が変わるのが特徴。一方の日本酒は、毎年同じレベルを出すのが特徴。もちろんお米の出来も毎年変わりますが、蔵元の杜氏がその年に収穫されたお米にあわせた酒造りをするため、毎年同じ品質と味の日本酒になります。」とのことでした。確かに、イタリアのワインは「○○年の出来は最高、○○年はいまいち」などと評価され、ボトルの表側にしっかり製造年が明記されていますが、日本酒のボトルでは製造年は裏側にひっそり記載されているだけですね。
会場にいた客のうち半数ほどが女性でしたが、女性に嬉しい情報も浦霞は提供してくれました。「日本酒にはアミドが沢山含まれているので、お酒を飲んだ翌日は肌がきれいになりますよ!」これには会場のイタリア女性たちも笑顔に。最後に「日本酒を飲むと、血流もよくなり、リラックスできます。1日にワイングラスで2~3杯ほど、200~300mlを毎日飲むと血もきれいになり健康的です」と締めくられ、日本酒への期待が高まったところでいよいよ日本酒の試飲へと移ります。
この日の試飲に選ばれたのは、浦霞の「純米酒 浦霞」と「禅」の2種。「禅」は40年前から販売され、浦霞酒造の中でも最も人気のあるお酒です。
日本酒に合わせたイタリアのおつまみ料理は4種類。お肉のお寿司、チーズとポテトのスフレの一皿と魚と海老入りつくね、赤ビーツのサラダの一皿の合計二皿。
「イタリアン・タパス」のオーナー兼シェフのMarco Laporta(マルコ・ラポルタ)さん(トスカーナ州グロッセート出身)は「“禅”はとっても美味しいですね、気に入りました。日本酒がセッコ(secco=ドライ・辛口)なので、料理は少しdolce(ドルチェ=甘い)な味付けのものにしました。白ワインには魚料理が合いますので、日本酒も同じだと思い、魚と海老入りの料理なども合わせてみました。」
気になるイタリア人の日本酒への反応は?会場でインタビューしてきました。
・日本に行ったことがあり、以前から日本酒が大好きな男性「もともと和食が大好き。お寿司とかうどんが大好きなので、お寿司に合う日本酒が好きです。今回飲んだ日本酒はとっても美味しくて最高でした。ワインよりも日本酒の方が好きかも!」
・この日、生まれて初めて日本酒を飲んだワイン関連の仕事をしている男性「まさに今、初めて日本酒を味わいました。まず香りがワインとは全然違いますね。軽い口当たりで、とても好ましい味、洗練された味がします。普段白ワインはmanzoni bianco(マンゾーニ・ビアンコ、北イタリアのモンテッロ産の白ワインの銘柄)などの感じが好きですが、通じるものがあります。これまではお寿司を食べる時はデリケートな味わいの白ワインを選んでいましたが、今度は日本酒をあわせてみたいと思いました。」
・日本に行ったことがある他の男性「マッコリとかも好きで、もともとお米を使ったアルコールが好き。普段フィレンツェで飲める日本酒はクオリティーがいまひとつのものばかりだけど、今日飲んだ浦霞は全然違うレベル。とても美味しい!」
・以前にも日本酒を飲んだことのある女性「delicato e raffinato(デリカート・エ・ラッフィナート=デリケートで上品・洗練)。アルコール度数はいくらですか?あまりアルコールを感じないから、ついつい飲んでしまいます。小さいグラスで見た目も素敵だから、より美味しく感じますね。」
会場には偶然、同じラジオ局のジャーナリストの友人、Gimmy Tranquillo(ジミー・トランクイッロ、ラジオ名です)がいました。フィレンツェは小さい街なので知り合いに偶然出会うことはよくあります。ジミーは、アメリカのカリフォルニア州に20年住んでいたイタリア人で、当時から日本酒に親しみ、色んな日本酒を飲んできたとのこと。「アメリカでいつも日本酒飲んでいたけど、この禅は別格だね!いやあ、すごく美味しい。会場で買えるのかな?是非、買って帰りたい。」
日本酒の魅力の虜になったGiovanni Baldini(ジョヴァンニ・バルディーニ)氏が2015年にフィレンツェで立ち上げた「Firenze Sake(フィレンツェ・サケ)」も、イタリアでの日本酒普及活動を活発に行っている団体の一つです。奥様が日本人という縁もあり、日本酒に魅せられたバルディーニ氏は日本の蔵元を直接訪れて買い付け、フィレンツェで日本酒の輸入販売を行っています。ブログやイタリア各地で行う日本酒イベントを通して、イタリアで日本酒情報を発信しています。
高知県安芸市の蔵元「有光酒造場」を招いてフィレンツェのワインショップで開かれた有光酒造場の「安芸虎」の試飲会では、日本酒好きのイタリア人たちがバルディーニ氏の日本酒への情熱がこもった解説に聞き入っていました。バルディーニ氏はこれからもイタリアで日本酒の普及に力を入れていきたいと熱く語っています。
ワイン大国イタリアでは、まだまだ日本酒の知名度は低く一般的に普及しているとは言い難い状況ですが、日本酒に魅せられたイタリア人たちの普及活動によって少しずつ日本酒の注目度が高まっているようです。美味しいワインだけでなく美味しい日本酒まで飲めるようになったら・・ますますアルコールから離れられないフィレンツェ生活になりそうです!
第一回連載の記事はこちらから→ 【イタリア発、美食通信」コラム連載がスタート!】
第二回連載の記事はこちらから→ 【イタリア発、美食通信」コラム第二回が掲載されました】
第三回連載の記事はこちらから→ 【イタリア発、美食通信」コラム第3回が掲載されました】
第四回連載の記事はこちらから→ 【【お城でワインテイスティング】「イタリア発、美食通信」コラム連載第4回】
第五回連載の記事はこちらから→ 【【クリスマスムード溢れる試飲&試食会】「イタリア発、美食通信」コラム連載第5回】
第六回連載の記事はこちらから→ 【【南イタリア・プーリア州のワイナリー】「イタリア発、美食通信」コラム連載第6回】
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