イタリアのファッションビジネスとお酒は切っても切れない関係
このブログでも何度もお伝えしている世界最大規模のファッション展示会ピッティ・ウオモ。この展示会に最初訪れた時、日本とあることは違って驚いたものです。それはビジネスシーンでもお酒を飲んでいること。しかも朝から終日、お酒が普通に置いてあるのです。
日本のビジネスシーンでも勤務時間終了後の会食ではお酒が入りますし、私が日本で勤務していたテレビ局業界では年末年始の挨拶で午後でもお酒が入ることがありました。ですがアルコール関係の商談会以外において展示会などでお酒を飲みながら商談・・というのは日本では見たことがありません。
また日本ではお酒が入るとついつい飲み過ぎて酔っぱらってしまう人も少なくありませんが、イタリアのビジネスシーンにお酒が絡んだ場合でも意外にも酔っ払いを見たことがありません。また酔っ払いがうっかりお酒を近くの展示物にひっかけてしまうといったトラブルに遭遇したこともないです。イタリアのビジネスシーンにおけるスマートな飲みニケーション(もはや死語?!)、続きは以下をどうぞ。
宅ふぁいる便コラムVol.10 by小林真子
イタリアでファッションの街と言えばミラノというイメージがあるかと思います。そして実際に流行の最先端はミラノでありますし、ミラノの街を歩くとファッション誌からそのまま抜け出したようなオシャレな人たちを見かけます。
一方、私が住むフィレンツェの市民たちはオーソドックスなファッションを好む人が多く、ベーシックなファッションをいかにうまく着こなすかという点に重点を置いている人が多いように思います。そんなフィレンツェの街が突然ファッション誌から抜け出したような人たちで溢れかえる時期が一年に二回あるのをご存知でしょうか。
それはピッティ・イマジネ・ウオモ(通称ピッティ・ウオモ)という世界最大級のメンズファッション見本市が開かれる1月と6月の4日間です。この期間は世界中からメーカー、PR、バイヤー、ジャーナリストらファッション関係者がフィレンツェに集結するため、普段見かけないようなファッションに身を包んだ人たちをフィレンツェの街のあちこちで見かけるようになります。93回目を迎えたピッティ・ウオモは1月9日~12日の4日間開催され、合計36000人もの人が訪れました。
ピッティ・ウオモには、全身着飾って自慢のファッションを披露する人たちが大勢来場し、ジャーナリストやカメラマンたちがこぞって彼らの写真撮影をして雑誌やSNSに掲載するため、多くの人の目に止まるようになり知名度は高まる一方です。
ところで「お酒がテーマのこの連載でなぜファッションの話?」と思われかもしれませんが、このピッティ・ウオモもしかり、こういったイタリアの展示会やイベントには必ずお酒があり、日本とは事情がずいぶん異なります。私はここ数年、毎回ピッティ・ウオモに出かけているので今となっては驚きもしなくなりましたが、最初に会場を訪れた時は各ブースにスパークリングワインや赤ワイン、カクテルが置かれていて、勤務中の人たちも軽く飲んでいたりする光景に驚いたものです。
ピッティ・ウオモはメンズファッションの見本市ですから、大切な商談の場所です。しかも一年先に市場に出回る大切な新作の洋服やアクセサリー、バッグのサンプルが美しく展示されています。もちろん開催も朝から夕方にかけてのいわゆる通常の勤務時間帯で夜間ではありません。そんな場所と時間帯にも関わらず、多くの展示会場やブースに上記の類のお酒が置かれており、グラスを片手におしゃべりに花を咲かせる光景がところかしこで繰り広げられます。
展示会だけではありません。ピッティ・ウオモの期間中はフィレンツェの数多くのショップ店内でパーティーが開かれるのですが、そこでもやはりお酒が置かれています。セレクトショップではサンプルどころか商品そのものが並んでいますが、そういう場所でもやはりお酒があります。
こじんまりしたショップなどでは足の踏み場が無いほど混み合ってしまう場合もありますが、それでも訪れる人たちも慣れたものでグラスをこぼさないよう器用に片手に携え、洋服の品定めをしています。
実はファッションショーでもワイングラスを手に持ちながら鑑賞する人たちがいます。イタリアのファッションショーではショーの前に軽食やお酒がふるまわれることがあるため、ワインの入ったグラスをそのままショーに持ち込み飲む人がいるためです。
美術館の新しい企画展覧会オープニングパーティーでもお酒が振る舞われることがあります。招待客たちはワインを片手に展示品を鑑賞し、アーティストとの交流を楽しみます。アーティストに取材しているジャーナリストたちも招待客たちと同様にお酒を飲みながら話を聞いています。
これが日本なら「大切なサンプルや商品にお酒がかかったらどうするんだ!」「真っ昼間からお酒をあおって仕事とはどういうことか!」「勤務中なのにお酒臭いバイヤーやジャーナリストなんて信用ならない!」などとちょっとしたクレーム対象になってしまいそうです。私も「お酒がこぼれてショーのモデルが滑ったら大変じゃないのか」だの「お酒が美術品にかかるかもしれないなんて考えただけで恐ろしい」などとついついハラハラしてしまうこともあります。
ただ、イタリアではこれまでお酒によってトラブルが起きている光景など今まで一度も見たことがなく、酔っぱらって悪ふざけをする客もいません。むしろイタリア人たちはお酒を飲んでリラックスすることによって、よりスムーズにコミュニケーションを図っているように見受けられます。お酒文化がいい具合にイタリア人の生活に溶け込み、お酒がさりげなく人々の交流の潤滑油となっている。イタリアで様々なイベントやパーティーに出席する度にいつもそう実感します。
考えてみれば、私はテレビ局でニュース番組の報道記者をしていたので様々なイベントを取材してきましたが、お酒を飲む機会があった取材はほとんど記憶にありません。思いつくのは新酒の品評会の取材で日本酒を飲んでリポートしたことぐらいですが、その時は「勤務中にお酒を飲むなんてなんだかドキドキするなあ!」などと、妙な緊張を覚えたものです。また放送を見た上司や同僚、カメラマンたちから「お酒を飲んでほろ酔いぐらいの方が滑舌もいいし、いつもよりはマシなリポートができるじゃないか。これからは一杯飲んでからリポートしたら?」と冷やかされたのを今でもよく覚えていますが、そのことで冗談を言い合うくらい日本では勤務中や昼間にお酒を飲むのは非日常的なことのような気がします。
日本とイタリアではつくづくお酒との付き合い方が違うように感じることが多いですが、今となってはイタリア流の「イベントにお酒はつきもの」にすっかりなじんでしまった私。帰国した際、ビジネスランチの席でうっかりワインなどを注文して周りから白い目で見られないよう注意する必要がありそうです・・・。
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