「夢を叶えるために、ソムリエになりたい!」
ワインのエキスパートになるためのソムリエコースは日本人も多く学んでいますが、学ぶ理由は「ワインが好きだから」「ワイン関係の仕事に就きたいから」など、人それぞれかと思います。
今回はイタリアでソムリエを目指すフィレンツェ出身・在住ステファノ・セッチのお話です。28歳、フィレンツェでDJとして活躍する今どきの若者の彼がソムリエを目指す理由とは?
宅ふぁいる便コラムVol.12 by小林真子
ワインのエキスパートになるためのソムリエコースは日本人も多く学んでいますが、学ぶ理由は「ワインが好きだから」「ワイン関係の仕事に就きたいから」など、人それぞれかと思います。今回はイタリアでソムリエを目指すフィレンツェ出身・在住ステファノ・セッチのお話です。彼がソムリエを目指す理由とは?
ステファノ・セッチ、28歳。音楽、旅行、ファッション、美味しいものが大好きな今どきの明るい性格の若者です。ストリート・ファッションに身を包み、コンサートでラップを熱唱し、フィレンツェのナイトクラブやBARでDJとして活動しています。そんな彼からこんな近況報告を受けました。
「フィレンツェのフォーシーズンズホテルで働きながら、ソムリエになるための勉強をしているところなんだよ。」
DJのステファノがソムリエを目指しているのは意外な気がして詳しく話を伺うことにしました。インタビュー場所はBevo vino(ベヴォ・ヴィーノ)。フィレンツェ市民に人気のサン・ニッコロ地区にある、気軽に食事やお酒を楽しめるエノテカです。
「ここでは、これがお勧めだよ!」とステファノが注文したのはUgo(ウゴ)という名のカクテル。ホワイト・スプリッツをサンブーコという植物のジュースで割ったウゴはさっぱり爽やか、夏にピッタリのカクテルです。
日本の若者たちの間でよく飲まれているのはビールやカクテルですが、イタリアの若者の間ではどんなお酒が飲まれるのでしょうか。
「イタリアも同じだよ。友人たちと楽しく飲む時は、ワインじゃなくてビールやカクテル、ウィスキーとかウォッカなどの場合が多い。だけどイタリア料理で昼食や夕食をともにする時はワインを飲むよ。年齢に関係なく、ワインはイタリア料理の食事に欠かせない。」
DJをしているステファノがなぜワインに興味を持つようになった経緯を伺いました。
「ワインに興味を持つようになったのはおばあちゃんの影響なんだ。ワインだけじゃなくて、イタリアの野菜とか肉料理などすべて大好きなんだけど、それはおばあちゃんの存在が大きい。」
ステファノの祖母ジュリアナさんは現在92歳。その昔、ある地主が所有していたフィレンツェのミケランジェロ広場近くの農地でご主人とともに小作人として働いていました。ワイン用ブドウ、オリーブ、トマトやズッキーニといった農作物を耕し、兎や鶏、牛を飼育していたため、ステファノは幼い頃から祖父母が生産した新鮮な野菜やお肉を食べて育ったそうです。
「今でもそうだけど、昔から食卓に並ぶものはどれもこれも新鮮で何を食べても美味しかったんだよ。おばあちゃんもお母さんも料理上手で、物心つく前から美味しいものをずっと食べてきたから、すっかりグルメに育ってしまった。今でも食べることが大好きだよ、自分で料理もするし。食への情熱はおばあちゃんの影響。おばあちゃんの料理で特に好きな一品はCibreo(チブレオ)というフィレンツェの伝統料理なんだ。鳥レバーをエキストラバージンのオリーブオイルとサルビアで調理した料理で美味しいよ。」
食への情熱と同時に音楽にも情熱を注いだステファノ。10代半ばでクラシックギターの国際コンテストで何度も優勝するほどの腕前になっていましたが、大学は祖母の影響を受けてフィレンツェ大学の農学部へ進学。大学の3年間の基礎過程ではブドウやオリーブなどの果物や野菜の生産を学び、その後の2年間の専門課程では、「ワインとパスタの原料の小麦はトスカーナ州で最も大切なものだから」という理由で、ワインと小麦について学びました。卒業論文のテーマは「70種類の古代小麦について」。
大学で学んだ知識を生かして、ステファノは今年に入ってトスカーナ古代小麦を使ったグリッシーニやクラッカーなどのスナックをつくる会社を立ち上げました。会社名は「Pansecci(パンセッチ)」。
ビスケットやカントゥッチを作っているトスカーナのお菓子メーカーと提携して、トスカーナ州の原料100%でできたスナックづくりを手がけています。商品の成分表示には「トスカーナの古代小麦配合、トスカーナのオリーブオイル、ヴォルテッラ(トスカーナにある街の名前)の塩」などと記され、ステファノの原料へのこだわりが見られます。
「まだ立ち上げたばかりのプロジェクトだから、ホームページも途中段階。展示会に出品するなどして育てていきたいプロジェクトだよ。」
昨年はトスカーナ州のキャンティクラシコワインを生産するワイナリーで働き、ワインづくりに携わりました。ここでも大学で学んだワイン製造の知識が生かされました。
「ワイナリーで働いて、ますますワインへの情熱が高まったんだ。そこで新たな夢が生まれたんだよ。イタリアが誇るイタリアワインを世界に広める仕事をしたいって思うようになった。マーケティング、宣伝、卸販売業などを通してイタリアワインを世界に向けて紹介していきたい。だからそのために今は2つのことをしているんだ。一つはフィレンツェにある5つ星ホテルのフォーシーズンズホテルで働くこと。もう一つはソムリエコースで学ぶこと。フォーシーズンズホテルで世界最高峰のサービスを学び、ソムリエになってワインを販売するための知識を身につけたいんだ。」
フォーシーズンズホテルでは、各種イベント・パーティーで提供される飲食のサービス、管理、コントロールをするロジスティクスの仕事を6ヶ月間経験しました。9月からはフォーシーズンズホテル内にあるミシュラン星つきレストラン「Il Palagio(イル・パラージョ)」でソムリエ・アシスタントをすることになっています。
「一流のサービスを学ぶことが出来て、自分が成長していることを実感しているよ。9月からはソムリエ経験ができるから今から楽しみ。」
ステファノはフォーシーズンズホテルで働きながら、昨年からAIS(Associazione Italiana Sommelier)=イタリアソムリエ協会のソムリエコースで学んでいます。AISは、1965年にミラノに設立された。イタリア政府認定の非営利団体です。
AISのソムリエコースでは研修プログラムが3レベルに分かれています。最初のレベルはブドウ栽培、醸造学、試飲技術などの基本について学び、第二レベルでは国産ワインだけでなく世界の様々なワインへの知識を深めます。最終レベルでは、それまでのレベルで学んだ知識を応用して食事とのマッチングなどを学び、実践研修を行います。そして全てのレベルを学んだ後は試験があり、この試験に通れば晴れて政府公認ソムリエとなります。
「最初のレベルが終わったところなんだけど、ブドウ栽培や醸造は大学でも学んだし、ワイナリーの経験もあるから既に知っていることも多かった。だけど、レッスンの最後に毎回3種類のワインの試飲をするから様々なワインを知ることが出来てとてもいい経験になっている。最終試験はとても難しいと聞くけど、頑張って受かったら次はWSETの資格も取りたいんだ。」
WSETは1969年に創設されたロンドン拠点のワイン教育機関で、国際的に認められている認定資格です。
「WSETのコースは英語で学ぶことになるけど、イタリアを世界へ広める仕事を目指すにはいい経験になると思うんだ。AISのコースが終わったらアメリカかイギリスでWSETのコースで学ぶ予定だよ。そういえば、WSETには日本酒ソムリエコースもあるんだけど、いつか日本酒のソムリエにもなりたいな!フィレンツェにも日本酒BARが出来たんだけど、ここの日本酒や日本酒カクテルがとても美味しくてね。Netflixが制作した日本酒のドキュメンタリー番組も観てますます日本酒に興味を持った。そうそう、日本のニッカやサントリーのウィスキーも最高だね。」
グルメなステファノはずっと前から日本に行きたくてしょうがないそう。大好きな日本の話題になると話が止まりません。
「日本は食べ物、文化、作法、すべてが好きだよ。日本に行ってすきやばし次郎でお寿司を食べることが夢なんだ。それからフグも食べてみたい。ラーメンも沢山食べたいなあ!日本のファッションも好きで、特に日本製ジーンズが素晴らしい。エドウィン、EBISU、Kitsuné (キツネ)など何枚も持っているよ。キツネはフランスのブランドだけどファッションをディレクトしているのは日本人なんだ。」
「僕は普段、DJ活動もしているけどJapan Waveもよくかけている。特に日本人アーティストのNujabes(ヌジャベス)が好きなんだけど交通事故で亡くなってしまって残念でならない。それから、日本の”作法”も素晴らしいと思っている。日本は交通機関も時間通りで、物事がスムーズにきちんと進むと耳にする。聞いているだけでもイタリアと全然違うから、一度日本に行って実際に見てみたいんだ。」
ところで、話を聞いているとステファノは現在フォーシーズンズホテル、トスカーナ古代小麦を使ったスナック生産プロジェクト、DJと3つも仕事をこなしていることに気づきます。
「イタリアは失業率が高いんだ。特に若者の失業問題は深刻。残念ながらフィレンツェでも就職はとても厳しくて、イタリアではお金を稼ぐことが本当に難しいんだ。今は3つの仕事をこなして、ようやくまともな収入になるというのが正直なところでね。いつかイタリアワインを世界に広める仕事をすることを目標に、今はあれこれ試しながらその道を模索しているところだよ。」
若者の就職難が問題となっているイタリアで、それでも逞しく自分の道を切り拓こうと挑戦を続け、前へ前へと進もうとするステファノ。この夏は兄のフランチェスコが住むカリフォルニアに一ヶ月滞在し、フランチェスコが働いているベニスビーチのイタリアンレストラン Casa Ado(カザ・アド)でDJ&ソムリエとして働く予定です。
「カリフォルニアのワインも美味しいから向こうでもたくさんワインを飲んでくるよ。アメリカでのソムリエ体験もこれからの人生にとっていい経験になると思うんだ。イタリアワインを世界に広める仕事ができるようこれからも頑張るよ。この夢のためなら、フランチェスコみたいに外国へ出ていくことも考えている。もし僕を必要としてくれる日本企業があれば声をかけてください、日本も喜んで行きます!」
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