「やっちまいましたね~、マクドナルドさん」と思わず言ってしまいたくなるこのCM。イタリアで流れているマクドナルドのテレビCMなのですが、イタリア語がわからなくても、見るだけで理解できる内容です。
一応解説しますと、イタリア人の男の子とその両親の3人家族がイタリアのピザ屋で何を注文しようか考えています。ウェイターが「ご注文は?」と聞くと、両親は【ちょっと待って】のポーズ。そこでウェイターが男の子に「君はどのピザが食べたい?」と聞くと、この子は「un happy meal=ハッピーミールを一つ」と答えます。ハッピーミールとは、日本ではハッピーセットと呼ばれ、マクドナルドの子供向けのハンバーガーとポテトとドリンクとおもちゃのセットのこと。
つまり、子供は「ピザなんかじゃなくて、マクドナルドが食べたいんだよ!」と返答したわけです。
イタリア語を学習されている方のために、一応CMの全会話も書いておきます。
ウェイター” Volete ordinare?” (ヴォレーテ・オルディナーレ?=ご注文は?)“E tu, che pizza vuoi? “(エ・トゥ、ケ・ピッツァ・ヴオイ?=君は?どのピザが欲しい?)
男の子 “Un happy meal!”(ウン・ハッピー・ミール!=ハッピー・ミール!)
*注釈:イタリアでも英語をそのまま使っています。un(ウン)は一つという意味です*
ナレーション 【Tuo figlio non ha dubbi. Happy meal sempre a 4 euro.】(トゥオ・フィーリオ・ノン・ア・ドゥッビ。ハッピー・ミール、センプレ・ア・クアットロ・エウロ。)
いや~、この最後のナレーションも凄まじい。直訳しますと「あなたの息子は疑い(迷い)がない。ハッピーミールはいつでも4ユーロ」。懐かしい芸人の長井秀和さんの決め文句、あなたの息子は「間違いない」という感じで伝えています。
ピザに絶大な誇りを抱いているイタリア国民。日本でいうところの寿司のような存在です。それを何を血迷ったのかマクドナルドさん、「イタリアの国民食のピザよりアメリカのマクドナルドが食べたいの~。」とのたまってしまったのです。日本で「寿司よりもマクドナルドを!」なんてCMしたら・・・呆れてしまうでしょう。
ただでさえ、イタリアという国はアメリカのファーストフードチェーンが大嫌いです。
こちらの写真は3年ほど前に、フィレンツェのマクドナルド前で撮影したものなのですが、何をしているところだと思いますか?この日は世界的な反マクドナルド運動デモの日で、老若男女問わず、様々なイタリア人が大勢マクドナルドの前に集まって反マクドナルド・デモを行っているところなんです。「Chiudi!(キウーディ=閉店しろ!)」や「Assassino(アッサシーノ=殺し屋)!」と叫んでいました。マクドナルドは営業を一時停止しなければならないほど、デモは白熱したものでした。
Assassinoはおそらく、アニマリスト(動物愛護者)の観点からですが、彼らが反マクドナルド運動をする理由は主に二点あります。(1)マクドナルドはキャピタリズム(資本主義)のシンボル、アメリカが世界を牛耳るキャピタリズムへの反対(2)ファーストフード文化がイタリアの素晴らしい伝統料理文化を破壊していることへの怒り。
フィレンツェにはスターバックスカフェもなければ、ケンタッキー・フライド・チキンもありません。サブウェイとバーガー・キングとマクドナルド程度です。そして、私の周りのイタリア人は、こうしたファーストフード店へは主義として行かないというアンチ・ファーストフードの人が多いです。
まだイタリアに来て間もない頃、イタリアにおけるアンチ・マクドナルド思想のことなど知る由もなかった私は、日本にいた時のように、「マクドナルドへ行こう」とイタリア人の友人に声をかけました。そこで友人から「私はそういったところへ行かない主義。」と言われて、心底驚いたことを今でも覚えています。そうか、そういう視点があったのか、と。
こうしたイタリア人たちの考え方は、個人的に私はとてもいいと思っています。イタリアにいると、日本という国は良くも悪くもアメリカばっかり見ているということによく気づきます。そしてアメリカの物はいいものとしてとらえ、そこに何の疑問も持たないことが多い。最近でこそ、日本マクドナルドが昨年、過去最大の赤字を出したことでマクドナルドの失墜が取りざたされるようになりましたが、それまでマクドナルドに対して健康面以外で良くないものかも、と疑問に思っている人はあまりいなかった気がします。
イタリアをはじめとするヨーロッパという国は、アメリカという大国の方針やビジネスモデルをなんでもかんでも受け入れることはなく、そこに疑問の目を向けることも忘れません。イタリア人たちから「どうして日本はそんなにアメリカ、アメリカってアメリカばかり崇拝するのか?」と聞かれることもあります。正直、私自身も幼い頃からアメリカに憧れ、アメリカの大学へ留学したくらいです。こうした日本のアメリカ崇拝思考については、イタリアでようやく気付きました。
例えば、食文化に関しては日本の思想はイタリアの思想にとても近いです。私はアメリカに1年3か月、イタリアに3年住んでいますが、短いとはいえ自分の実体験からして、長い歴史を持つ伝統料理、地域に根付く特産品などが沢山あって、そこに誇りを抱いているのは日本とイタリアの共通点だと思います。そして、その文化を破壊する威力のあるアメリカの巨大ファーストフードチェーン侵入に警鐘を鳴らすイタリアと、全面的に受け入れる日本。イタリア人からすれば、「なぜ日本のように素晴らしい食文化を持つ国に、あんなに多くのアメリカのファーストフードチェーンがあるんだ?」となるでしょう。イタリア人からは日本食は素晴らしい文化だと認められています。逆にアメリカの食文化は歴史も浅く、文化とすらみなされていません。他国からはそんな風に価値づけられているのに、肝心の日本がアメリカのファーストフードを崇めているのはなんだか歪に見えるなあと。イタリアに住んでいると、そういう風に見えてきます。
言うまでもないですが、アメリカがいいとか悪いとか、イタリアがいいとか悪いとか、ファーストフードの良し悪しとか、そんなことを言っているのではありません。イタリア人のように、他国の文化に対して、きちんと自分たちの考えを持ち、疑問の目も向け、その上で判断するという姿勢は、日本人も見習いたい姿勢だと言いたいだけです。長いものに巻かれず、自国の文化に合わないものはあえて取り入れないようにする、という判断ができるのは、自国の文化をしっかり理解し、そこに誇りを抱いているからだと思います。
というわけで、こんな背景があるにも関わらず、というか、あるからこそ敢えて挑発する意味があったのかは知る由もありませんが、マクドナルドは冒頭のテレビCMを流してしまったのです・・・。そりゃあ、イタリア人怒るってば・・・ 。
きたとしかず says
私は十年以上前にジェノヴァに住んでいたのですが、やはりイタリア人にチェーン店嫌い、ご当地食への愛情を凄く感じ、日本のチェーン店好き、食においての流行への飛びつき方を考えさせられましたね。
Mako says
きたとしかずさん、コメントありがとうござます。イタリアは10年以上前もやはり郷土料理愛が強かったんですね。海外のものを上手に取り入れる柔軟性があるのは日本人の優れた特徴ですけど、自国の文化を誇り、守ろうとする意識も忘れてはいけないなあと、イタリア人を見ていて思います。