<※2022年6月にウェブマガジン「イタリアニティ」に掲載になった記事です>
イタリアの果物と聞いて、真っ先にさくらんぼが頭に浮かぶ人はいないと思いますが、イタリアではさくらんぼは各地で生産され、イタリア人も大好きな果物です。そんなさくらんぼの生産地で、毎年さくらんぼ祭りが開かれる街、ラーリ(Lari)をご紹介します。日本人にとって発音の区別が難しいL(巻舌無し)とR(巻舌あり)の組み合わせの名前は少し日本人泣かせではありますが、大勢の人で賑わうさくらんぼ祭りの時期に訪れてほしい、かわいらしい街です。
1957年から続く、伝統あるラーリのサグラ「さくらんぼ祭り」
日本でも「夕張メロン祭り」などご当地フルーツの収穫祭が各地で開かれますが、イタリアでも同じです。イタリア語ではサグラ(sagra)といい、各地でご当地生産物やグルメのお祭りが開かれています。街や生産物・グルメをPRする絶好の機会として街をあげてのお祭りとなり、人気のサグラには大勢の人が訪れます。
ラーリはさくらんぼの生産地で、さくらんぼ祭りは1957年から続く伝統あるサグラです。第64回目を迎える今年は、5月28〜29日と6月2〜5日に開催されました。
ラーリは斜塔で有名なピサから車で40分ほどのところにありますが、残念ながら交通の便が少々悪いので、車で行くことをお勧めします。街の中心は駐車スペースが非常に少ないため、さくらんぼ祭りの際には近くの臨時大型駐車場に駐車し、会場を行き来する臨時シャトルバスを利用してください。(※シャトルバス運行日は毎年変わるので要チェック)
コロナ禍を経て3年ぶりの開催となった今回のさくらんぼ祭りは、待ち望んでいた人たちが大勢訪れて、街の中心地は足の踏み場が無いほどの賑わいを見せました。トスカーナ州のエウジェニオ・ジャーニ知事もお祭りに駆けつけ、旬のさくらんぼを楽しんでいました。
貴重な在来種のラーリのさくらんぼ、19品種はどれも甘くて濃い赤色が特徴的
会場では、生産者たちがラーリやその近隣で栽培しているさくらんぼの販売ブースを出します。ラーリのさくらんぼはイタリアでも非常に貴重な在来種で、19の異なる品種があります。祭りではさくらんぼが品種別ごとに販売されるため、味比べを楽しむこともできます。
ラーリのさくらんぼに共通して言えることは、味が濃くて甘いことと、色が濃い赤や赤紫色であること。現在ラーリでは、この貴重なラーリのさくらんぼを保護し、より多くの人に知ってもらうため、IGP認証に向けて準備を進めています。IGPとは保護指定地域表示あるいは地理的表示保護のことで、EU(欧州連合)が認める「ご当地農産物」の証です。
さくらんぼはイタリア語でチリエージャ(Ciliegia)といい、イタリアでは20品種ほど存在しますが、これとは別にアマレーナ(Amarena)というサワーチェリーが存在します。見た目は似ているものの、チリエージャは甘くて生食に向いていおり、酸っぱいアマレーナはジェラートやお菓子に利用されることが多いです。
ラーリのさくらんぼはチリエージャ。とても美味しいので生食が一番ですが、お祭りではお菓子やジュース、リキュールなども販売されていました。中でもさくらんぼ入りのフリッテッラ(ミニドーナツ)は大人気で常に行列ができていました。
さくらんぼ祭りでは、その年の一番美味しいさくらんぼの生産者を表彰する授賞式も開かれます。街の中心広場に設置されたステージにて様々な賞が発表され、その年の最高の生産者には市長から記念品も授与されます。
この受賞は生産者たちの励みにもなっているようです。最高の賞を受賞した生産者たちは発表を受けると飛び上がって喜んでいたのが印象的でした。
美しい緑あふれる自然に囲まれた丘の上にあり、街の中心にそびえ立つ城壁とお城が特徴的なラーリ
お祭りとともに、観光を楽しめるのもサグラの魅力です。ラーリはピサ県に位置しており、2014年に隣町と合併してカッシャーナ・テルメ・ラーリ(Casciana Terme Lari)となりました。現在は人口8800人ほどを擁する街です。メディチ家にとっても重要な位置づけだったラーリの街では、各所でメディチ家の紋章を見ることができます。
高くそびえ立つ城壁が街の中心に位置し、その上には中世のルネッサンス期に改装されたヴィカリ城(Castello dei Vicari)があります。さくらんぼ祭りの期間中はお城は常に開いているため、誰でも訪れることができます。中世ルネッサンス期のお城としては珍しく、現在でも居住可能です。
城壁の上はぐるりと一周することが可能。美しいヴィッラや緑豊かな自然のパノラマを楽しむことができます。
街の中心地側では、さくらんぼ祭りや町並みを俯瞰で見ることができます。
日本の輸入食材ショップなどでも販売されている高品質の乾燥パスタ「マルテッリ」
ラーリはこじんまりとした街ながら、さくらんぼ以外にも有名なものがあります。ひとつは、最高品質で知られる乾燥パスタメーカーのマルテッリ(Martelli)。表面が白っぽくざらっとした手触りは美味しい乾燥パスタの証ですが、マルテッリ社のパスタも然り。
マルテッリ家は、1926年からラーリの街の中心にパスタ工場を構え、代々受け継いできた伝統的な製法を守りながら乾燥パスタづくりをしています。100%イタリア産の小麦にこだわり、スパゲッティやフジッリなど、5種類のパスタを販売しています。黄色いパッケージもかわいらしく、お土産にも喜ばれそうです。日本でも輸入食品店などで手に入りますので、見かけたら試してみてはいかがでしょうか。
マルテッリ(Pastificio Artigiano Tradizionale Famiglia Martelli)
住所 Via dei Pastifici, 3, 56035 Lari (PI)
https://www.famigliamartelli.it/
天然洞窟を利用したチーズセラーで90日以上熟成させてつくるチーズ
ラーリにはもうひとつユニークなものがあります。それは、凝灰岩の天然洞窟を利用したチーズセラーです。ラーリ近郊にある創業1955年のブスティは家族経営のチーズ会社で、今も当時と同じ基準でチーズを作っています。そのブスティが2019年にラーリにある洞窟にチーズセラーを作りました。
この洞窟チーズセラーでつくられるチーズの名前は「トレ・ラッティ・ラーリ(=ラーリの3種のミルク)」。羊、牛、山羊の3種類の動物のミルクを組み合わせ、植物由来の凝固剤でつくられた、ブスティの新作チーズです。
チーズ工場の冷蔵室で最低60日熟成させた後、ラーリにある洞窟セラーに移して、木の板とわらの上で90日以上熟成させます。洞窟内は常に一定の温度と湿度であるとは限らず、自然の状態で保管されて、完成します。
なお、写真撮影のために特別に洞窟セラーを見せてもらったのですが、普段も公開されているわけではありません。
洞窟で熟成されてつくるチーズは、洞窟チーズセラーに隣接したレストラン&ショップ「ラ・ボッテガ・ディ・カンフレオ(La Bottega di Canfreo)」で購入できます。このレストランではブスティの他のチーズも食べることができます。
サクランボ、乾燥パスタ、洞窟チーズ。様々な楽しみがあるラーリ、来年6月のさくらんぼの時期に訪れてみてはいかがでしょうか。
カゼイフィーチョ・ブスティ(Busti Formaggi S.r.l.)
住所 Via Guglielmo Marconi, 13 A/B, 56043 Acciaiolo di Fauglia (PI)
https://www.caseificiobusti.it/ラ・ボッテガ・ディ・カンフレオ(La Bottega di Canfreo)
住所 Via Sonnino 35, Lari, 56035 Casciana Terme Lari
https://www.labottegadicanfreo.it/formaggi/
<連載「二度目のイタリア、次に行くならこんな街」まだまだ知らないイタリアの魅力を紹介!>
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このコラムはイタリア情報サイト「SHOP ITALIA」で掲載になったものです。
【二度目のイタリア、次に行くならこんな場所Vol.9|さくらんぼ祭りと乾燥パスタ“マルテッリ”の街「ラーリ」】
◆「あがるイタリア」&「SHOP ITALIA」のでコラム連載しています。過去の記事もこちらからどうぞ♪
コラム一覧はこちら→ https://shop-italia.jp/author/mako-kobayashi
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