外出禁止4週目に突入のイタリア、自宅軟禁生活を日本人がフィレンツェから本音でリポート
3月29日。携帯電話の目覚ましの音で目が覚めたところ、なぜかいつもより眠い気がする。キッチンに行って壁掛け時計を見ると、「あれ?一時間ずれてる・・。あ、今日からサマータイムだ!」どうりで眠いわけだ。しかし、今年ほどサマータイムに影響を受けない年も無い。なにしろ、外出禁止令が出ている。外出ができないのだから1時間ずれたところで、電車やバスに乗るわけでもなく、友人と待ち合わせるわけでもないので、うっかり忘れても何も不都合は起きない。
自宅から500メートルより先の様子もわからない日々、時間や曜日、季節の感覚も薄れてくる
時間の感覚だけでなく、曜日感覚も薄れてくる。金曜になると、イタリア人たちがSNS上で「やったー、ようやく金曜日だね!」などと喜びのメッセージを交わし合うが、もちろん皮肉である。金曜日になったところで、翌日の土曜の予定も引きこもり確定なのである。こんなにも金曜にときめきを感じないのは、以前勤めていたテレビ局でシフト制で働いていた報道記者時代以来である。
街中に住んでいると時間、曜日に加えてさらには季節感も無くなってくる。窓からの景色だけでは大した変化は感じ取れない。外出禁止中にこれまで2度だけ食料品の買い出しに出かけたが、外を歩いている人たちの格好で着るものを判断しようにも、歩行者がいない。適当に着て出かけたら「世の中はいつの間にこんなに暖かくなっていたんだ!」と驚いた。しかしその一週間後、トスカーナで季節外れの雪が降ったニュースを見た。もうなにがなんだかわからない。
ネットや友人たちの話から得る新型コロナウィルス感染拡大のニュースは、感染者数が多すぎて実感がわいてこない。なにしろ自宅から500メートルより先すら行けない生活である。町はゴーストタウンになり、人がいない町はSF映画のようで現実味がない。確かに尋常ではないことはひしひしと肌で感じるが、苦しんでる人たちを目の当たりにするわけではない。日々増え続ける感染者数をネットで眺めては「本当にイタリアでそんなことが起きているんだろうか・・」とさえ思ってしまう。
日本からの心配の声と実際の生活にギャップを感じることも
日本の家族や友人から「イタリアはすごく大変なことになってるけど大丈夫?」「不安だろうけど気をつけて乗り越えてね」などと連絡が来るのだが、実際には拍子抜けするほど穏やかな生活を送っている。隔離された生活というのは、もう3週間も経験してきたが不便ではあるものの、ある意味においては安心感がある。それは外に出ても人がいないので、他人からウィルスをうつされることも、自分がもし感染していたとしても他人にうつす心配も少なくなったという安心感だ。
今回の新型ウィルスで一番恐ろしいのは、自分が無意識のうちに細菌兵器になり得ることだと思う。自分が知らないうちに他人にウィルスを感染させ、その相手の命を奪うことにもなりかねないということ。それが一番怖い。だから、国が全土を封鎖してくれたことで、他人と接触する機会が減り、自分が誰かに感染させてしまったらどうしようという不安が軽減された。
先々週、知り合いにコロナウィルス陽性者が出てしまった。フィレンツェから車で20分くらいの町に住むパオロさん。パオロさんとは一年以上会っていないが、「防御服に身を包んだ救急隊がパオロさんを救急車で運んでいった」と知り合いから聞き、その後陽性反応が出たと耳にした。70代くらいだがいつも若々しく、女性とのおしゃべりが大好きなパオロさんとは共通の趣味の海外旅行話でよく盛り上がった。そんなパオロさんも誰かからウィルスをうつされたのだと思うと、改めて他人に感染させることの恐ろしさを思い知る。今も入院しており、無事を祈っているところだが、隔離生活を送るということは、つまりはパオロさんのような被害者を一人でも多く出さないことを意味するんだとしみじみ感じた。
それに、いっそ隔離された方がいつかは感染拡大が収まるだろうとも思えるようになった。国中をあげて「外出禁止&必要最低限以外の経済活動停止」と、これだけやっているのだから、いつかは効果が出るだろう。今やれることをみんなでやっているのだから。そんな気持ちで日々過ごしている人は少なくないのではないだろうか。
2011年に東日本大震災を東京で経験したが、あの時は毎晩のように余震で目が覚め、家にいても平和が無かった。それに比べたら、少なくとも余震で眠れないこともない。イタリアでも外出禁止令の直後はパニック買いは起きたが、その後は普通に商品が並ぶようになり、3週間経過した今もスーパーでは、パスタや粉類などが品薄になることは時々あるものの、生活に支障をきたすことはない。
事実上の経済活動停止状態、既に経済ダメージが出始めている
そうはいっても、このような状況は長引くほど当然ながら様々な痛みを伴ってくる。経済ダメージも身近で耳にするようになった。友人は勤務先から電話があって「取引先からの依頼がほとんどキャンセルになって給料が支払えなくなったから、転職先を探してほしい」と連絡をうけた。バイトができず家賃が支払えなくなって困っているという学生のニュースも目にした。シチリアでは「食べるためには仕方がない」と、食べ物が買えなくなった市民がスーパーで支払い拒否をしているという記事も読んだ。
私自身も経済ダメージを受けている。私は日本向けに「AmicaMakoアミーカ・マコ(https://www.amicamako.com)」というイタリア製レザーバッグのオンラインショップを経営しているが売上はガタンと落ちた。もちろん安全性を確保できているから営業を続けているのだが、日本のお客様からは「今回のコロナの件で、この時期イタリアから商品を送ってもらう事に正直不安もありました。そちらで働いている方の状況や体調はいかがですか?安心して使って大丈夫でしょうか。」という内容のメールが届き、こう心配している日本のお客様は少なくないのだろうと実感。営業を続けられるオンラインショップですら経済損失を被っている現状、休業を余儀なくされている実店舗や飲食店、企業のダメージの大きさは計り知れない。イタリアの経済が今後ますます深刻化してくることは想像に難くない。
ただ、このような緊急事態にイタリア政府は市民を守る法案の準備をいくつも進めてもいるようだ。3月31日現在、国からはフリーランスや自営業者に現金給付金として1カ月600ユーロ(約7万2000円)を支給するという内容や、事業主は2ヶ月間は従業員を解雇できず給料を支払えない2ヶ月間は国が80%を肩代わりするといった内容を発表している。日々そういった情報は変化するので細かくチェックしていく必要があるが、イタリアがどういった経済支援をしていくのかは、日本にとっても今後参考になるかもしれない。
隔離期間が長引けばメンタルに影響が出ることも心配の種に
もう一つ心配なのはメンタル面。私の友人のAは、近所にスーパーもない田舎で猫と一緒に暮らしているが、車がないため食料調達も宅配便を頼むしか手段がない。現在はテレワークのため、外出がほぼできず孤独感が募るらしい。私に連絡してきては「寂しすぎて、時々泣いてしまう」と言うが、なにしろ出かけていくことができないから励ますことしかできない。彼女のような人も少なくないようで、ネット上では「メンタルケア」「心理カウンセリング」の広告を多く見かけるようになった。日本のようにメンタルケアの電話相談サービスもある。
メンタル面には住環境も大きく影響する。庭付きの豪邸と牢屋内での生活を比較してもらえば想像できると思うが、ずっと家にいることになるので住んでいる環境にもメンタルは左右される。幸運にも私が住んでいるマンションの部屋は日当たりがよく天井も高くて開放感があり、窓からはフィレンツェのシンボル・ドゥオモが眺められ、かなり快適に暮らせている。周りの住民も静かでとても穏やかだ。これがもし日当たりが悪く、窓からの景色は壁のみの閉塞的な家で、周りからケンカの声や大音量の音楽がかかりっぱなしだと想像したら・・やはり恐ろしい。外出禁止が始まって早々に鬱々としてしまっただろう。
知り合いの中には外出禁止中ゆえに、大好きな叔母さんが亡くなった際駆けつけることができなくて、その死に目にあえなかったと嘆き悲しんでいる人もいる。
イタリアにおける新型ウィルスの被害は信じられないほど深刻なのは疑いようもなく、日本からはイタリアの全ての人が大変な思いをして絶望的な隔離生活を送っているように思われるのも無理もないことのように思う。そして、実際に経済面やメンタル面で苦しんでいる人もいるだろう。
しかし、また一方で多くの人たちが悲惨な生活を送っておらず、うまく気分転換をはかりながらそれなりに楽しく過ごそうとしているのも事実である。日本人以上に閉鎖的な生活や孤立することが苦手なイタリア人でも多くの人が隔離生活を既に3週間も無難に乗り切っている。このことは今後、在宅の期間がいつもより長くなりそうなことを不安に思っている日本人にとって少しは安心材料になるかも知しれない。
外出禁止令が出されてからイタリアで過ごす軟禁生活もいよいよ4週目に突入。次回は、そんな閉鎖期間中の日々を周りのイタリア人たちはどのように過ごしているかについて紹介したいと思う。
※写真はすべて外出禁止中のフィレンツェの様子を撮影したものですが、最寄りのスーパーへ買い物に行く途中に撮影したもので、移動制限に反していません。
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【外出禁止4週目に突入のイタリア、自宅軟禁生活を日本人がフィレンツェから本音でリポート】
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