フィレンツェの映画館で小津安二郎監督作「東京物語」上映
一昨日の夜、フィレンツェ市内の映画館Stenssen(ステンセン)で、小津安二郎監督の「東京物語」が一日限りで上映されました。上記はその宣伝ですが、10月6日上映ではなく、10月6日から上映となっている上に、宣伝写真も「東京物語」ではなく「秋刀魚の味」、6つの傑作と書かれているので、これからもシリーズで小津作品が上映されそうです。
イタリアではほとんどの外国映画が吹き替え上映
イタリアの映画館ではほとんどの外国映画が「吹き替え」上映なのはご存知でしょうか。日本では、俳優のオリジナルの声が聞きたくて、必ず字幕を選んでいただけに、なんでもかんでも「吹き替え」なのは少々辛いところ。選択の余地がなく、ほぼ吹き替えです。007シリーズのジェームズ・ボンドもイタリア語だと、なんとも雰囲気が出なくてなんだかなあ・・・という切ない状況です。ですが、今回の小津監督「東京物語」は嬉しいことに日本語オリジナルにイタリア語字幕!これは絶対観たいと思い、映画館へ観に行きました。
小津監督「東京物語」へのイタリア人の反応は・・・?
イタリアは映画もしょっちゅう上映開始時間が遅れます。なので、けっこうギリギリに行っても大丈夫だと思って出かけ、映画館に着いたのが上映15分前。そうしたら・・・なんとこんな状況が待っていました。
すごい人だかり!あまりにすごい人だかりなので、別のイベントかと思ったくらいです。しかも全員イタリア人です。日本人は後ほど一人だけ見かけだけでした。年齢も幅広く、若い人も多かったです。
映画館の中もこの行列。
中は既に超満員。この映画館では立ち見のシステムはないので、満員になったところでチケット販売終了。多くの人が入れなかったほどの盛況ぶりでした。私もあと5分遅かったら入館できなかったところでした。また、あまりの混雑に映画上映開始時間は20分ほど遅れました。
イタリアも世界共通の映画館衰退の影響を受けていて、フィレンツェでも次から次へと映画館が閉館になっています。一日限りの上映だということも、またほとんど日本映画が上映される機会がないという状況ということもありますが、それでも映画館への客入りが減少している中で、これだけ超満員になるとは、小津安二郎監督作品の人気はすごいものがあります。日本人として嬉しくなる出来事でした。
イタリア人が小津監督映画上映に長蛇の列を作ったことに対して、イタリア人の知人はこうコメントしていました。
“ozu è un grande regista ed è il minimo che si può fare per lui”
訳:「小津監督は偉大な監督で、長蛇の列を作ることは監督のためにできる最低限のことです」
私は一番後ろの席に座り、会場中を見渡せたため、映画上映中のイタリア人たちの反応も肌で感じることができて面白かったです。「東京物語」は家族がテーマになっており、既にこの時代に今に通じる日本の家族関係の問題が描かれているのですが、とても濃い家族関係をいまだに築いているイタリア人は、日本の少々そっけない家族関係にとっても驚愕している様子が見て取れました。親を邪険に扱う次女に対し、時折「CATTIVA!(=意地悪!)」という声も聞こえたくらいでした。それでも、最後まで見終わると、小津監督のメッセージがイタリア人へもよく伝わったのか、上映は拍手喝采をもって終了しました。ちなみに東京物語、イタリア語のタイトルはViaggio a Tokyo(ヴィアッジョ・ア・トウキョウ=東京への旅)です。
イタリアでも絶大な人気のあの日本人監督の場合は?
小津監督は、そうはいっても多くのイタリア人に有名かというとそうではなく、映画ファンなどに人気があるように思います。現在、どのイタリア人にも有名で絶大な人気を誇る日本人監督と言えば、やはり宮崎駿監督です。ただ、最後の作品「風立ちぬ」は、内容がいつもの作風と違ったためか、上映は日本公開からずっと遅れての公開な上に、わずか一日限りでした。ただ、さすが人気監督なだけあり、やはり映画館にはイタリア人たちが殺到していました。
イタリア語ではSi alza il vento(スィ・アルツァ・イル・ヴェント=風立ちぬ)といいます。上映後にイタリア人たちから聞かれた質問は、「作品の中で出てくる三角形をした食べ物、あれはなんだ?」というもの。正直、私も見たことの無い食べ物だったので、後でインターネットで調べたところ、お菓子のようでした。イタリア人は「日本の食べ物」にとても興味があるようです。
遠い異国のイタリアで、イタリア人たちが日本映画を観るために長蛇の列を作る。繰り返しになりますが、この光景はイタリアにいて日本人として嬉しくなります。また、映画を通して日本の文化が伝わるので、これからももっと素晴らしい日本映画がイタリア人に届けばいいなと思いました。次回の小津監督の別作品の上映が今から楽しみです。
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