前回から引き続き、長寿世界一のチレント取材についてです。まだ前回分を読まれていない方はこちらからどうぞ。→「現地取材!長寿世界一のイタリア「チレント」地域に学ぶ」本日発売【週刊新潮】
100人に一人が百寿者の地域チレント
100人に一人が百寿者という世界一の長寿地域チレント。長生きの県といわれる島根県の10倍の割合なのだそうです。もともとチレント地域にあるピオッピという村は「地中海ダイエット Dieta Mediterranea」発祥地で話題となっていますが、ここにきて百寿者率が世界一となり世界中の研究者やジャーナリストの注目を集めています。週刊新潮の取材で最初に訪れた村アッチャロリでは「世界中からマスコミが来て取材を受けたよ」と村人たちが話すほど。詳しいインタビューや取材の内容は発売中の週刊新潮をご購入いただき、鈴木雅哉デスクによる渾身の記事を読んで頂きたいと思いますので、ここでは取材の裏側についてリポートします。
チレントってどこにある?
チレントはナポリを州都とするカンパーニア州の中のサレルノを県都とするサレルノ県の中部・南部一帯の地域です。今回の取材ではティレニア海に面した海の村、アッチャロリとピオッピ、そして山間部に位置するセッサ・チレントを中心に取材しました。
最初の目的地は海沿いの村アッチャロリ。週刊新潮の鈴木デスクとはナポリで待ち合わせ、ナポリからはアッチャロリから一番近い都市アグロポリまで電車で向かいました。アグロポリでは駅のすぐ近くにあるレンタカー会社で車を借り、アッチャロリまでレンタカーを走らせ、お昼少し前にアッチャロリに到着。1月半ばだったもののポカポカ陽気で黄色い花が各所で咲いており、まるで春のような陽気に驚きました。
取材がてら訪れたレストランはまるで海上レストラン
まずはランチがてら現地情報を探るべく人が集まりそうなレストランを探すことに。ところが、訪れたのは真冬の1月半ばで海の街にとっては完全にシーズンオフ。ほとんどのレストランが休業しており、唯一開いていたレストランに入ることに。ここが大当たり、素晴らしい絶景が待っているレストランでした。
見渡す限り360度、海、海、海!まるで海上のレストラン。
こりゃあ、料理も期待しちゃうってものです。海の無い盆地のフィレンツェに住んでいるため、これだけの海のパノラマを眺めながらの食事にはいつも以上にテンションが上がりました。サービスの前菜は海老などが使われた一品。
大ぶりのあさりのスパゲティ
前菜とパスタでおなかがいっぱいだったのでデザートは頼まなかったところ、仲良くなったオーナーご夫妻からハンドメイドのデザートのサービスが。
しかもこの後さらにもう一品デザートをサービスされ、苦しいほどおなかがいっぱいに。とそこへ・・・。
これまた自家製というリキュールをサービスしてくれました。奥様曰く「消化を助けるわよ!」というこのお酒はフィノッキエット(ういきょう)のリキュール。雰囲気は高級レストランでありながら、オーナー夫妻はとても気さくで温かみがあり、ゆったり海を眺めながらくつろいで食事を楽しめるレストランでした。
とっても人が良く、取材にも協力的で親切に対応してくださったレストランのオーナーご夫妻。このレストランへは翌日もう一度訪れることになります。
Mediterraneo (メディテラネオ)
住所: Via Lungomare 1, 84068 Acciaroli, Italia
HP: http://www.mediterraneoristorante.com/home.html
さて、ランチでおなかがはちきれそうなほど一杯になった後は、アッチャロリの街を偵察しながら村人に話を伺うことにしました。素晴らしいお天気だったので、外でおしゃべりに花を咲かせている3人の村人に海に面した広場で出会いました。
上記写真の中で真ん中の紫のセーターの女性は90歳半ば。背筋もまっすぐで若々しい。手前に座っている女性は年齢を言うのを恥じらい、結局教えてくれませんでした。年齢を言いたくないという気持ちそのものが若い証拠ですね。
事前に取材のアポイントを取っていたアッチャロリに住む95歳のジュゼッペさん。快くご自宅に招いて下さいました。自宅は2階にあり階段があるのですが、「毎日上り下りしているよ」というだけあって階段もスムーズに上っていました。
ジュゼッペさんはご長寿の村アッチャロリのPR担当ともいうべき存在。世界中から訪れるジャーナリストの取材に進んで応じ、長生きの秘訣やご自身の人生について語っていらっしゃいます。漁師や庭師などで生計を立てていたジュゼッペさんはアッチャロリの魅力を「街の住民たちはみんな家族みたいなもの。」といい、奥さんに先立たれた今も一人暮らしですが街の住民たちと毎日のように交流があるので寂しくないと言います。
毎日、昼食の後は近所のBAR(バール、日本で言う喫茶店のようなところ)でORZO(オルゾ=大麦の飲み物)を飲み、住民たちがカード遊びに興じるのを眺めるのが日課です。イタリアではBARの存在はただお酒やコーヒーを飲むだけでなく、住民たちとコミュニケーションを図る場所でもあります。
ジュゼッペさんのインタビューに話を戻すと、特に印象に残ったのが「女性とお話しするのも長生きの秘訣だよ。女性と話をすると楽しいからね。」というメッセージ。世界中からアッチャロリを訪れる女性ジャーナリストたちと写真を撮るのが好きで、その写真も見せてくれました。
BARでの取材中、ジュゼッペさんが私のそばに来ると耳元で「一緒に写真を撮影してくれる?」とのお願いが。光栄にもジュゼッペさんの世界中のジャーナリスト写真撮影コレクションに私との写真も加えて頂けるようです(^^)一緒に撮影した写真は現像してジュゼッペさんに送りたいと思います。
取材2日目は朝からポッリカのステファノ・ピザーニ村長さんとのインタビュー。その前にアッチャロリのレジデンスホテルで朝食をとったのですが、この朝食に大興奮。ここのオーナー、パオラさんの手作り朝食は地元チレントの名物ばかりがずらり。下の写真はその一部ですが、ブッラータチーズ、伝統的な製法でつくられたサラミ、地元でとれたトマトのブルスケッタ、手作りジャムの数々・・などなど。その他にも手作りキッシュやハンドメイドのケーキまで並び、「もう一つ胃袋があったらいいのに!」と願ったほどバラエティ豊かな朝食でした。
Residenza Le Serre(レジデンツァ・レ・セッレ)
Località Serre di Fiume sn, 84068 Acciaroli, Italia
HP: http://www.residenzaleserre.it/
豪華な朝食に名残を惜しみつつ、ステファノ村長とのインタビュー取材に向かいます。取材はアッチャロリの住民の憩いの場であるBARで行いました。
ステファノ村長はアッチャロリの村にご長寿が多い理由について「住民たちがみな家族のような存在で、お年寄りたちが疎外感を感じない。ゆったりした雰囲気の村なのでストレスも少ない。食事も地産地消で地元でとれる青魚や豊富な野菜や果物など健康的。」などを挙げていました。
海の村なので夏と冬では様変わりし、夏場は多くの観光客がイタリア、海外から訪れるそうですが、訪れた1月はシーズンオフ。街はとてもひっそりと静かで穏やかな雰囲気でした。とても小さい村なので数時間歩いただけでもすぐに村中の人に「日本から取材が来ている」と伝わり、どこへ行っても「昨日も見かけたよ」などと顔を覚えらるほどです。
また朝には近くの村から収穫されたばかりの新鮮な産直野菜&果物の屋台販売も行われていました。ここでは滞在中のアグリツーリズモのパオラさんにばったり出会いましたが、料理上手のパオラさんもこうした産直野菜を積極的に使うようにしているようです。
この日は足を延ばして隣村のピオッピに向かいました。ピオッピはアメリカ人生物学者で地中海ダイエット研究をしていたAncel Keys(アンセル・キーズ)が住んでいた村で地中海ダイエット発祥の地とされ、地中海ダイエットの博物館もあります。
ピオッピのBARで取材を開始すると、BARにいた紳士がすぐに案内役を申し出てくださいました。Angelo Morinelli(アンジェロ・モリネッリ)氏はアンセル・キース学者とも交流があったそうです。地中海ダイエットやピオッピについて詳しく語ってくれました。
「ピオッピのことならなんでも私にお任せ」とばかりに、モリネッリ氏はコーディネーター&ドライバー役まで厚いおもてなし待遇をしてくださり、どれだけ取材でお世話になったかお礼をどれだけ伝えても足りないほど。「いつか日本に行ったらその時はよろしく!」と笑顔で話していたのが印象的でした。それにしてもチレントの人たちは本当に人が良く親切な方が多かったです。
モリネッリ氏と一緒に歩くと、村中の人たちがモリネッリ氏に挨拶をしていました。やはりピオッピもアッチャロリと同じように村人のほとんどが顔見知り。
アッチャロリ取材のときに一人の村人が「そういえば、ピオッピのお年寄りは歌って踊るんだよ。夏になると海辺で歌や踊りを楽しむお年寄りがいるんだ。ピオッピも行ってみたら?」と言っていたので、本当にそんなお年寄りがいらっしゃるのかと思っていたら・・・すぐに超がつくほど陽気な二人のご婦人に出会いました。
マリアさんとジョバンナさんはともに90歳代。出会うとすぐに大喜びで取材に応じてくださり、おしゃべりが止まりません。仲良しの友達同士で「歌と踊りが大好きなの!」と歌と踊りを披露してくださいました。ピオッピの街が大好きで友達とこうしておしゃべりするのが楽しくてしょうがない様子でした。
「歌と踊りが好きなら、もしかしてお酒もいける口?」とふと疑問に思い、お酒は飲むのか、ワインは好きなのかという質問をしたところ、こんな粋なお返事でした。
「ワインはね、誰かと一緒に飲まないと美味しくないからね。相手がいたら飲みたいわ。」
温かい人情が伝わる抱擁も受け、お話したのはほんの数分ですが私にとっては忘れられない出会いとなりました。
続いてモリネッリ氏は100歳の女性と90代の男性のご夫婦をご紹介してくださいました。お手伝いの女性曰く「ご主人の方は何でもよく食べるのよ。豆料理とか、とにかくなんでも。」
ご夫婦はピオッピの高台の方にお住まいでしたが、モリネッリ氏が次に紹介してくださったご婦人は海に面したお宅に住んでいました。ルイーザさんとその家族もまた快く自宅に招き入れてくれ、お話をしてくださいました。
ルイーザお祖母さんが一緒に住んでいるお子さん夫婦もとても親切で、突然の訪問にも関わらず「何を飲みますか?コーヒーを入れましょうか?」と声をかけてくださいました。こちらが遠慮していたところ、最終的には自家製のリモンチェッロ(レモンのリキュール)をご馳走してくださいました。それがまた大変美味しく、和やかに取材が進みました。上の写真のルイーザさんの右側にカーテンが見えますが、カーテンの先にはこんな絶景がありました。
雄大なティレニア海。自宅のテラスから見えるこんな美しい海の景色を眺めながら、ルイーザさんは一日をゆったり過ごしているようです。
これまでのインタビューの中で何度も何度も出てきたご長寿の秘訣キーワードは「ALICI(アリーチ=カタクチイワシ)」でした。アッチャロリ、ピオッピともにティレニア海で収穫できるカタクチイワシは住民たちの食事によく登場します。どのお年寄りもカタクチイワシを食べると話していました。「これは食べないわけにはいかない」と、夕食は初日にランチを頂いたレストランMediterranea(メディテラネア)でカタクチイワシを頂くことにしました。
メディテラネアのご婦人は「取材はどう?紹介したおばあさんには会えた?」などと聞いてくれ、私たちが再びレストランへ訪れたことを喜んでくださいました。
カタクチイワシのグリルは、日本人なら醤油をたらしたいところですが、驚いたことにりんごのコンフィチュールを添えられていました。青魚と果物の組み合わせは少々ドキドキしたのですが、とっても美味!イワシの生臭さをコンフィチュールの爽やかな甘さが消し去っていました。これは今後も実践したいコンビネーションです。
この日も料理担当のご主人がテーブルまで挨拶に来てくださり、話に花が咲きました。こうしてアッチャロリで過ごす最後の晩が過ぎていきました。
最終日はピオッピのお医者さんへの取材からスタートしました。休日の土曜日にも関わらず、朝からご自宅へ招いて下さり快くインタビューに応じてくださいました。ご子息がなんと日本語を学んでいるそうで、ご子息も同席しました。
チレントでよく食べる干しイチジクをご馳走してくださいました。クルミやアーモンドと一緒に食べるのがポピュラーな食べ方です。
これまでの研究など様々なお話をしてくださったお医者さんですが、中でも興味深かったのはチレントのご長寿たちは長生きといっても寝たきりや入院、病院にかかりっきりの状態ではなく、普通の生活ができる長生きだということ。病気もほとんどせず、大病を患ったことがある人が少ないということでした。ただ長生きというのではなく、健康的に長生き。これまで話を伺ってきたお年寄りたちも「薬なんて飲まないよ。オリーブオイルが薬代わり。」と言っていました。
取材もいよいよ終わりに近づいてきました。この日も朝からずっとアテンドをしてくださったモリネッリ氏は、私たちがお医者さんの取材をしている間にチレントの別の村、セッサ・チレントの取材をアレンジしてくださっていました。これまで海の村を取材してきましたが、今度は山間部の村。セッサ・チレントはピオッピから車で40分ほどのところにありましたが、標高が高いため気温もぐっと低く、アッチャロリやピオッピとは雰囲気もまるで違います。
セッサ・チレントでは村のことに詳しい3人の方々アントニオ・ミリオリーノさんやアントネッラ・アグレスティさんらが、不在だった村長に代わって村役場で取材に応じ、村の歴史や現状から地中海ダイエットまで詳しく紹介してくださいました。
これまで海沿いの村での取材では、お年寄りのご長寿の秘訣のキーワードに「青魚」がありましたが、山間部の村ではどうなっているのか。この点に関してはとても面白い話を伺いました。
「海と山の人の往来は頻繁にあります。例えば、海の村ではカタクチイワシの漁をします。山の村ではカタクチイワシの塩漬けを入れる栗の木の箱を製造します。そして海からカタクチイワシが山へ届けられ、山から入れ物の箱が海へ届けられるのです。だから海と山とは実はほぼ同じものを食べているのですよ。海の村の人たちが食べるパンは山の村でつくられたものだし、そのパンを作る小麦粉はチレントで収穫されたもの。だから結局、海の村でも山の村でも同じような食べ物を食べているんですよ。」
セッサ・チレントのお話を聞いた後は、みんなで104歳のピエトロ・フェッラザーノ氏を訪れることになりました。ピエトロさんは1913年10月14日生まれです。ここでもまたピエトロさんと一緒に住むピエトロさんの甥夫婦がステキなご自宅に招き入れてくださいました。
ピエトロさんは若い頃はオリーブや野菜などをつくる農業など体を動かすことの多い仕事をしていました。生涯独身で子供がおらず、現在はお兄さんの息子(ピエトロさんにとっては甥)のご夫婦と一緒に暮らしています。
「本当に何でもよく食べるのよ!」とは甥夫婦の話。とても元気で普段はよく眠り、薬も一切服用していないとのこと。毎日、昼と夜に赤ワインもたしなむのだそうです。陽気で明るい甥夫婦たちは日本からの取材をとても喜んでくださり、ピエトロさんに「日本から取材が来たのよ!あなたに会うためにここまで来たのよ!」と伝えていました。突然の訪問にも関わらず、ご夫婦は「夕食も一緒にいかが?」とまで言って下さり、ここでもまたチレントの人たちの温かさに触れることになりました。残念ながら夕食をご一緒できる時間がなかったため辞退すると「次は是非、夕食も一緒にね!」と笑顔で見送ってくれました。
その後、再びモリネッリ氏がピオッピまで車で送ってくださり、「今度はフィレンツェか東京でお会いしましょう」と握手をしてモリネッリ氏と最初に出会ったピオッピのバールでお別れとなりました。その後はレンタカーでアグロポリまで戻り、チレントにも別れを告げました。
これまでの繰り返しになってしまいますが、チレントの人たちのおもてなしは温かく穏やかでとても心地が良かったです。都会では味わえない人情味を感じました。また、皆が口を揃えて言っていたのが「家族だけでなく村自体が家族みたいなもの。村もお年寄りを守ってくれる。」ということ。どの村も規模が小さく、村中全員が顔見知りのような状態のため、村人たちがみなで仲良く助け合いながら暮らしているというのが印象的でした。出会ったご長寿の方々も寂しそうな人はおらず、みな心穏やかに過ごしているように見えました。
ご長寿島サルデーニャ取材に続き、長寿世界一チレント地域取材にも協力させて頂きまして週刊新潮の鈴木雅哉デスクにお礼申し上げます。
<<2月14日追記:イタリア・チレントのニュースに紹介されました!>>
この取材・記事・ブログについてイタリアのIL CILENTO NEWS 24に紹介されました。イタリア語ですが写真付きの記事が掲載されています。
IL CILENTO NEWS 24 : La longevità del Cilento sbarca in Giappone
https://cilentonews24.jimdo.com/2018/02/11/la-longevit%C3%A0-del-cilento-sbarca-in-giappone/
2月7日販売の週刊新潮で特集。カラー写真も。
この取材の特集は「週刊新潮」にて先週号と今週号の2回に渡って掲載されています。前篇は2月1日発売になり、後篇は2月7日に発売になりました。後篇のタイトルは「チレント地域で見つけた長寿の秘密」。私の手元にまだ2月1日発行号分も届いていないので首を長~くして待っているところですが、日本の皆様は現在も全国の書店などで発売中ですので是非ご購入の上、チレント特集を読んでくださいませ。
ちなみに同じ号では「長友選手がインテルを離れトルコへ」という記事でも関わらせて頂き、「現地ライター小林真子」として原稿内にも記載して頂いていますので、こちらの原稿もどうぞご確認ください。
「世界一長寿チレント」特集の「週刊新潮」は全国の書店にて、または以下のサイトからも購入できます。→http://www.shinchosha.co.jp/magazines/order/shukanshincho.html
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