イタリアのパスクア(復活祭、イースター)といえば、鳩の形をしたコロンバや卵の形をしたチョコレートを思い浮かべると思いますが、南イタリアにはこの他にパスクワに欠かせない伝統菓子があるのをご存知でしょうか。私は中部イタリアのフィレンツェ在住なので、これまで見たことも食べたことも無かったのですが、ナポリを州都とするカンパニア州でパスクアに食べられるお菓子といえば「パスティエラ(PASTIERA)」です。
パスティエラの起源はいくつもの伝説に由来し、最も有名な伝説はギリシャ神話「人魚セイレーン(イタリア語ではシレーナ)」の話です。人魚セイレーンが美しいナポリ湾を気に入って住むようになり、美しい歌声を人々に披露すると、その歌声に感動した人々は村で最も美しい7人の少女に命じて、小麦粉、リコッタチーズ、卵、調理した小麦、オレンジのフラワーエッセンス、スパイス、砂糖をお礼として人魚に贈りました。人魚はこのお礼を神々に捧げ、神々がこの材料を使って作り上げたのがパスティエラと言われています。
素敵な伝説を持つパスティエラですが、素朴な見た目からは想像できないほど、作るのに手間も時間もかかるお菓子です。手作りするにはかなりハードルの高いパスティエラですが、今回そんな高難易度のパスティエラの作り方を紹介してくれたのは、なんと12歳のマルティーナ・チンチネッリちゃん!生まれも育ちもフィレンツェのマルティーナちゃんですが、祖母と母がカンパニア州パドゥラ出身で、南イタリアのお菓子づくりもお手の物。
「物心ついた時からお菓子づくりをしているの。おばあちゃんとお母さんからレシピを教えてもらうのはもちろん、自分でもテレビやインターネット、お菓子の本などを調べて、いつも新しいレシピを学んでいるのよ。日本のどら焼きもお母さんといっしょによく作るの!小豆だけじゃなくて、ヌテッラや手作りジャムを挟んでアレンジしたりね。将来の夢はもちろんパティシエになること!お菓子は食べることよりも作ることのほうが好きなのよ。」
大きな目を輝かせてお菓子づくりの話になると、夢中になって止まらないマルティーナちゃん。今回披露してくれたパスティエラのレシピも、おばあちゃんから受け継いだものです。叔母のヴァレリアさんにも手伝ってもらいながら、パスティエラを作ってくれました。
手間も時間もかかる、ハンドメイドの難易度の高い「パスティエラ」のレシピ
あまりに時間がかかってしまうため、使用する麦についてはパスティエラ用として瓶詰めで販売されている、既に調理済みの麦を使用しています。パスティエラを焼くのに使用する金属製のタルト型は、パスティエラ専用のものを使っていますが、市販のタルト型で代用可能です。
Pastiera(パスティエラ、リコッタチーズのケーキ)
・羊乳のリコッタチーズ 700g
・砂糖700g
・麦(調理済みの瓶詰め)560g
・全卵7個&卵の黄身のみ3個
・牛乳 300g
・塩ひとつまみ
・バター大さじ2杯
・小麦粉 適量(パスタフローラ生地を伸ばす際に使用)
・オレンジフラワーエッセンス(適量、香りの強さによって調整する)
・パスタフローラ(小麦粉500g、砂糖200g、バター200g、牛乳40g、ドライイースト5~6g、卵3個)
<下準備>
★パスタフローラの準備 ※前日までに作っておく(生地を一晩寝かせるため)
①木製台の上に小麦粉を山状に置く
②小麦粉の山の中心をくぼませて、中に砂糖を入れる
③さらに卵3つと塩をくぼみの中に入れる
④常温に戻して柔らかくしたバターを入れて、さらにドライイーストを上から入れる
⑤①〜④のすべてを混ぜ合わせてこねる。バターを入れているので、溶けないようできるだけ素早くこねて、生地がまとまったらボール状にまとめてお皿などの上に載せて冷蔵庫で一晩寝かせる。生地をまとめている時、あまりにベタつくようなら小麦粉を少しづつ混ぜて調整する。
★リコッタチーズの準備
①ザルにあげて、水気を切っておく
②リコッタチーズは水気を切ったものを、さらにマッシュポテトをつくる器具などで絞って、さらに水気を切ってそぼろ状にしておく
★オーブンを180度に予熱しておく
<作り方>
【工程A】
(1)耐熱鍋に麦と牛乳と塩ひとつまみを入れ、弱火で煮る
(2)頻繁にかき混ぜながら、ぐつぐつと沸騰するまで煮る
(3)火を止めて、バターを加える。全体をかき混ぜたら、しっかり冷ます
【工程B】
(4)工程Aとは別の大きな鍋またはボールに全卵7つと卵の黄身のみ3つ分と砂糖を入れる。
(5)下準備で水気を切ってそぼろ状にしておいたリコッタチーズを加えて、しっかり混ぜ合わせる
(6)全体がもったりする感じになるまで、よくかき混ぜる
【工程C】
(7)木製台に小麦粉をまぶし、タルト型1つ分のパスタフローラをめん棒で厚み3〜4ミリになるまで伸ばす
(8)タルト型の大きさに伸ばしたら、タルト型を覆うように生地をかぶせる
(9)タルト型からはみ出る分はナイフなどで削ぎ落とす。冷蔵庫に入れて冷やす
(10)削ぎ落とした生地に、足りなければパスタフローラ生地を足して、細長い棒状に生地を伸ばす。さらに生地を切る道具などを使って、リボン状の細長い生地になるよう切る。これは後で、ケーキの一番上にクロスさせて載せる部分になる。
【工程D】
(11)工程Bに、工程Aを加えて、全体が混ざり合うようしっかり混ぜる
(12)オレンジフラワーエッセンスを数滴垂らす。生地を混ぜ合わせて、一度香りの強さをチェックする。弱いと感じたらさらに加えて調整する。
【工程E】
(13)工程Cのパスタフローラ生地の上に、工程Dをタルト型の上から2センチほどの高さまで入れる
(14)工程Cのリボン状のパスタフローラを上からクロスして並べる
(15)180度に予熱してあるオーブンに入れて1時間以上焼く。表面が黄金色にうっすら焼き色がついたらオーブンから取り出す
(16)タルト型から外さずにそのまま、8時間ほど時間をかけて冷まして完成
過去にイタリア人のレシピ取材は数え切れないほどこなしてきた私ですが、その中で最も「なんと手間がかかる面倒なケーキなのー!」と取材して疲れを感じてしまったほどのパスティエラ。お菓子づくりに情熱を注いでいるマルティーナちゃんだからこそ、生き生きと熱心に作ってくれましたが、冷ます時間なども加えると一日がかりとなるレシピなので、時間と心に余裕がある時にチャレンジしてみてください。
「私の自慢のどら焼きも今度食べてね!」と、マルティーナちゃんがかわいい笑顔を輝かせて誘ってくれたので、いつかイタリア風どら焼きが取材できたらご紹介したいと思います!
このコラムはイタリア情報サイト「SHOP ITALIA」で掲載になったものです。
【12歳のマルティナちゃん直伝!南イタリア復活祭に欠かせないお菓子「パスティエラ」】
◆「あがるイタリア」&「SHOP ITALIA」のでコラム連載しています。過去の記事もこちらからどうぞ♪
コラム一覧はこちら→ https://shop-italia.jp/author/mako-kobayashi
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