日本では全国民に布マスクが2枚無料配布されるそうですが、フィレンツェでは使い捨て紙マスク2枚が無料配布され、4月20日から外出の際にはマスク着用が義務付けられるようになりました。
ところで、マスクといえば、連載しているSHOP ITALIAというイタリア関連ウェブマガジンにて去年2月に【イタリア旅行で“変な人”と思われないための「マスク」のマナー】というコラムを書きました。以下続きを読む前に、まずは先にそちらに目を通してください。新型コロナウィルス以前のイタリアにおけるマスク事情を説明しています。
【イタリア旅行で“変な人”と思われないための「マスク」のマナー】を読む
このコラムを振り返ると、まずはカバー写真のフィレンツェのドゥオモ前の混雑ぶりに驚かされます。なんだか遠い昔の光景のように感じてしまいますが、つい3ヶ月前まではフィレンツェでもオーバーツーリズム状態で常にこんなに混雑していました。
不要不急の外出は禁止となってから6週間が経過した現在は、人はほとんど歩いていません。新型コロナウィルスによって、イタリアにおけるマスク事情も様変わりしました。
わずか3か月でイタリアはこれほどまでに変化
つい3ヶ月前までは、去年2月に書いたコラムのようにフィレンツェでマスクをつけているのは、アジア系の人たちのみでした。そして、イタリア人全員がそんなマスク姿のアジア系の人たちをからかっていました。ジョークのネタにしたり、「何なの、あれ?」という奇異な目で見ている人も多く、イタリア人やフィレンツェを訪れるアジア系以外の観光客でマスク姿の人はいませんでした。
状況が一変したのは、3月10日の外出禁止令から。この日を境にイタリア人たちが急にマスクを着用し始めました。日毎にマスク利用者は増えていき、巷では「どこで手に入るか?」といった情報交換がされるようになり、手作りマスクの作り方などのビデオが出回るようになりました。
マスク確保に乗り遅れた私はどこで手に入れていいかわからず、スーパーで聞いても「うちにもないし、今は薬局も売り切れじゃない?」と言われる始末。仕方ないので、人と通り過ぎる時はマフラーで口を塞ぐようにしていたのですが、そんな時の私を見るイタリア人たちの反応は、まるで犯罪者でも見るかのような目つきでした。「まあ、マスクもしていないなんて」という、恐れを帯びた目つきや、睨みつけるような目つきで見られたものです。つい1ヶ月前までは、マスク姿のアジア系をからかっていた人たちから、です。
スーパーに行くと、「なんだ、マスク持っていないのか?」と入り口で人数制限の管理をしているスタッフからマスクが手渡されました。スーパーでの買い物には入り口で殺菌ハンドジェルの使用とビニール手袋着用の義務付けに加え、マスク着用も命じられるようになりました。
ちなみに全国チェーン展開しているConad(コナッド)というスーパーで渡されたマスクは単に穴を開けただけの布切れでしたが、口元に「andrà tutto bene(すべてうまくいくさ)」という励まし合いの言葉がプリントされ、そのデザインに少々言葉を失いました。確かここは、デザイン大国であるはずのイタリアではなかっただろうか・・と。ある意味、斬新ではありますが。
そして現在。外出禁止から6週間が経過した今は、なんとマスクの着用が強制されるようになりました。マスク着用の強制は地域によって異なるのですが、私の住むフィレンツェでは4月20日から外出の際にはマスクの着用が義務付けられ、着用していないと罰金まで取られます。
フィレンツェでは使い捨て紙マスク2枚が無料配布、マスク着用は義務付けに
日本では全国民に一人2枚の布マスクを無料配布が決まったそうですが、フィレンツェでは一人2枚使い捨て紙マスクの無料配布でした。イタリアとは思えぬ迅速さで届けられたことにも驚いたのですが、その配り方にも驚きました。
担当者2人がマスク姿で戸別訪問し、担当者から名字を聞かれ、担当者の持っている住民リストと照合した上での直接手渡しという方法だったのですが、そもそも他人と接触するなと言われている状況にありながら、1メートル以内に近づいての直接手渡しです。しかも、配られたマスクは封の開いている紙袋にむき出しの状態で入っていました。むしろ使って大丈夫なのだろうか?と不安をあおるような、ツッコミどころ満載のマスク配布。こんな配り方なら、ウィルス付着のマスクを混入させることなど、いとも簡単にできてしまえます。
配り方や梱包に少々難ありではあるものの、とりあえず無料マスクの配布は着々と行われ、フィレンツェでは20日からマスク着用の義務付けがスタートしました。
「魔女狩り」ならぬ「マスク不使用狩り」まで発生・・・
マスク着用の義務付けも始まり、今となっては全員がマスク状態となっているフィレンツェ。マスク無しでは歩けないような状態で、北イタリアのパドヴァではマスクをつけずにジョギングしていたイタリア人男性が、マスクをしていないことでイタリア人の男性二人から攻撃されて怪我をしたという事件がニュースになりました。もはや魔女狩りならぬ、マスク不使用狩りまで起きている始末です。
たった3ヶ月。マスク姿のアジア系を笑っていたイタリア人たちが、マスクをしないで外出すると罰金刑を受けるようになるまで変わり果てるのに、かかった期間はそのたったの3ヶ月です。
そもそも、私もかつてはイタリア人の友人たちへ、日本のマスクをお土産にしたことも何度もあります。そんなものがお土産になるほどイタリアではマスク着用は珍しいことでした。数年前にマスクをプレゼントした友人からは「マコ、まだあの時のマスク持っててよかった。今こそ本当に役に立ってて、ありがとうね〜!」とお礼を言われたくらいです。
音楽学校の先生をしているミュージシャンのRenato Cantini(レナート・カンティーニ)さんは、ほんの数か月前に音楽療法を教えるために京都や大阪に滞在したばかりですが、「私はその時、お土産としてマスクを日本から持ち帰りました。それがまさか緊急に迫られた必要性のためにそのマスクを使用することになるなんて、その時は想像すらしていませんでした。」と、驚きを隠せない様子。
日本でも人気のあるフィレンツェの高級スカーフブランド、Faliero Sarti(ファリエロ・サルティ)はオリジナルプリントのマスクを公式オンラインショップで販売するようになりました。シルクやコットン100%、カシミヤ混タイプのマスクなどを20〜25ユーロ(約2300円〜3000円)で販売しています。他にもマスクを販売するようになったイタリアファッション関係ブランドは多いのですが、まさかイタリアのファッションブランドがマスクを販売する日が来るとは・・。本当にこれまで想像したことすらありませんでした。
マスクに関するジョークがイタリア人たちの間で流行中
ここまで変わり果てた状況に、イタリア人たちもマスクをジョークにしている日々です。
4月12日はパスクワ(復活祭)でしたが、イタリアのパスクワで欠かせないのは卵型のチョコレート。このチョコレートは割ると中におもちゃが入っているのですが、このジョークはその中身のおもちゃがマスクだったというオチ。
イタリア初期ルネサンスを代表する画家ピエロ・デッラ・フランチェスカの絵画「キリストの復活」のキリスト画にマスクをつけたジョーク。
レゴ人形もマスクや防御姿というジョーク。
花粉症に苦しんでもマスクをつける習慣がなかったイタリア人たち。そんなイタリア人たちからまさかマスクを配布され、その着用が義務付けられる日が来るようになるとは。今では、イタリア人たちは帰宅時の手洗いも習慣になっています。これまでは、インフルエンザが流行中でも、帰宅時の手洗いの習慣もありませんでした。
フィレンツェでは4月17日から書店の営業が認められるようになり、本屋への外出も許可されるようになりましたが、そんな本屋にはレジに透明ガラスの仕切りが取り付けられ、お客と店員が接触しないような配慮がされていました。こうしたレジに仕切りを取り付ける習慣は、これから外出禁止が解除された後に様々なところで目にすることになりそうです。
この先いつまた世界中から観光客がイタリアへ戻ってくるかはわかりませんが、その時にはイタリア人がマスク姿の観光客をからかうことはもう決して無いでしょう。日本人にとってはイタリアで気兼ねなくマスク姿で観光ができるようになることは喜ばしいことですが、その変化の背景にある新型ウィルスのこの悲惨な状況を思うとなんとも複雑な心境です。
イタリア国民全員の日常習慣をたった3ヶ月で一変させた新型コロナウイルス。イタリアでの外出禁止は現時点では5月3日までとなっていますが、この期間に変わってしまったものはまだまだ他にも沢山ありそうです。
※すべての写真撮影は外出禁止に反しない範囲で行っています。
SHOP ITALIAの当コラム掲載はこちら↓
【たった3ヶ月、新型コロナの影響でこれほどまでに変わったイタリアのマスク習慣】
◆「あがるイタリア」&「SHOP ITALIA」のでコラム連載しています。過去の記事もこちらからどうぞ
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