フィレンツェと京都――ともに千年の歴史を紡ぎ、芸術、宗教、そして伝統工芸の都として世界に名を馳せる二都市。2025年、姉妹都市提携60周年を迎えた両都市が見据えるのは、文化が育む平和と、観光都市としての未来だ。
観光都市でありながら、文化都市であり続けること。
その困難と希望を抱え、京都とフィレンツェは問いかけている。
「私たちは、自分の暮らす町の文化を本当に理解しているだろうか?」
「手仕事や精神的な営みを、どのように次世代につないでいくのか?」
60年という節目は、ただの記念日ではない。都市が生き続けるための、そして平和を育むための、新たな「道しるべ」となる。
式典に込められたメッセージ ─「文化の世紀」へ
6月19日、フィレンツェのヴェッキオ宮殿にて、京都とフィレンツェ姉妹都市提携60周年記念式典が開かれた。この式典に、京都市より公式に招待され、京都とフィレンツェの架け橋のお手伝いに携わった。
式典にはフィンツェのサラ・フナーロ市長と京都の松井孝治市長がともに記念スピーチを行った。その中で、松井市長は、次のように語った。
「現在は世界中で紛争や分断が続いている。フィレンツェと京都はともに戦乱の時代を超えてきた。これからの時代は文化が平和を築く世紀であるべきです」

松井孝治京都市長
この言葉は、芸術や宗教、伝統工芸が育まれてきた両都市の歩みと重なる。文化とはただの伝統保存ではなく、変化の中で生き続ける創造の営みだ。

ベッキオ宮殿で記念記帳をするフナーロ市長と松井市長
過去と未来をつなぐ職人技
フィレンツェと京都の絆の柱の一つは伝統芸術。式典を機に、西陣織、京人形、京こま、京表具、京焼きなどの京都の伝統工芸の職人らが自費でフィレンツェを訪れ、京都伝統工芸品の展示会を開催した。
京こま匠「雀休」職人の中村佳之氏はこう語る。
「素材は変わっても、手のぬくもりは変わらない。私たちの仕事は創造することだけでなく、伝えることも大切です。だからこそ、フィレンツェの人たちとの対話の瞬間が重要なのです。」

京こま匠「雀休」職人の中村佳之氏
日本の職人たちは、伝統を現代的な視点で再解釈することで、国の文化を未来の世代に伝えることができると理解している。335年の歴史を誇る西陣織の織元「岡文織物」社長である岡本夏樹氏は、近年日本における着物の需要の減少に対し、西陣織を芸術的な織物として海外展開することに力を入れている。
「創業335年の歴史を持つ弊社ですが、昔からのものをダラダラ延長していけるとは思っていないので、半分は破壊しつつ、今まで培った技術は生かしながら、新しいものをどんどんつくっていきたい。今回、イタリア人から古典柄がすごく美しいと感動される反応があって嬉しかったです。」

フィレンツェ市民と交流する西陣織の織元「岡文織物」岡本夏樹氏
京表具職人「弘誠堂」の田中善茂氏の言葉も印象的だった。
「伝統工芸は過去のものではありません。日々新たに生まれ変わるものなのです。今を生きる営みであり、未来に向けて創っていくものなんです。日々新たに変えていかなければならないのです。」

イタリアのバイヤーたちに説明する
これらの言葉は、文化遺産を背負う宿命をもつ京都市出身の彼らだからこそ。こうした「創造的継承」は、文化都市としての自負に満ちている。伝統工芸とは保存されるべき遺物ではなく、常に自らを再生し新く変えていくものなのだと。
文化と平和の都市、京都とフィレンツェのこれから
フィレンツェと京都の両市は地域に根ざした体験を促進し、有名観光地集中型の観光モデルを克服する取り組みも行っている。目的は、訪問者に日常生活、あまり知られていない地域、国内文化をより身近に感じてもらうこと。
京都の観光中心地で130年以上の歴史をもつ老舗人形店「木村桜士堂」社長の木村安之氏も文化交流の大切さについて述べている。
「文化は輸出される製品ではなく、共有されるべき経験であり、ともに新しく構築する対話です。コケシ館には数多くの外国人が訪れてくれ、文化を共有してくれます。」
観光を通じた交流は、単なる経済活動を超え、都市同士、人間同士の文化の往来を生む。今回のフィレンツェと京都の姉妹都市60周年は、ただの記念日ではない。都市が生き続けるための、そして平和を育むための新たなスタートラインに立った瞬間だ。経済交流だけでなく、都市、住民、訪問者、職人の間の深い文化的交流。 60周年は目的地ではなく出発点であり、文化と平和の都市として京都とフィレンツェは、今後も新たな共存のモデルを模索していくことになる。松井市長は式典での演説でこう表現した。
「観光は対立を生み出すのではなく、つながりを生み出すものでなければならない。地域住民と観光客がつながりを持ち、持続可能でみなが協力しあって新しいバランスを築いていきましょう。」
■「京都とフィレンツェ60周年姉妹都市提携記念」はイタリアメディアにも寄稿
今回、式典や伝統工芸展に参加し、京都市長や京都の職人さんたちから伺った話を中心にフィレンツェ発のカルチャー系サイト「Seeds of Florence(シーズ・オブ・フローレンス)」にも同様の内容の記事を寄稿しました。イタリア語での記事ですが、翻訳機能などを使って読んでみてください。イタリア語を学習されている方はぜひイタリア語で挑戦を!
【La cultura come antidoto alle guerre】
https://seedsofflorence.it/news/la-cultura-come-antidoto-alla-guerra/
※今回取材させて頂いた京都の方々の情報(記事内登場順):
・京こま匠「雀休」中村佳之氏(京都伝統産業ミュージアム内のインタビュー記事)
・西陣織「岡本織物」岡本夏樹氏(HP: 岡本織物株式会社「六文字屋」)
・京表具「弘誠堂」田中善茂氏(HP: 京表具「弘誠堂」)
・京人形「木村桜士堂」木村安之氏(HP: 京人形「木村桜士堂」)
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フィレンツェと京都、観光都市の苦悩 ─ オーバーツーリズムとの向き合い方
今回のフィレンツェと京都の対話では、「オーバーツーリズム」にも関心が集まった。
フィレンツェの中心部を歩いた松井京都市長がまず感じたのは、想像を超える観光客の多さだった。数十年ぶりのフィレンツェ再訪だそうだが、人の多さに驚いたと実感を語った。その実感は、京都の現状とも重なる。どちらの都市も、“観光都市”として知られる一方で、市民生活とのバランスが大きな課題だ。
今回の京都市長のフィレンツェ訪問では、フィレンツェ市のヤコポ・ヴィチーニ副市長との式典後の会談にて、両市が直面する共通課題「オーバーツーリズム、マナー問題、観光による地域の過負荷」などについて、具体的な意見交換も行われた。
●フィレンツェの挑戦
フィレンツェ市は、以下のような観光対策を進めている。
旧市街への自動車流入制限(ZTL:Zona a Traffico Limitato)
民泊におけるキーボックス(建物入口にダイヤル式で鍵を開けるシステム)の禁止
飲食店の新規開設制限
これらの制度は、都市の生活領域を守るための施策だが、京都では同様の方策は取りにくい背景がある。
「京都には、旧市街という明確なエリアがない。清水寺や嵐山のような人気観光地が市街地から少し外れていて、同様の規制は難しい」と松井市長は語る。それでも、「流入規制は中長期的に検討せざるを得ない」とし、制度設計の参考として、フィレンツェのシステムの詳細を学びたいとした。
●京都が進める“共生”の仕組み
「私たちが避けたいのは、特定エリアに観光客が一極集中し、市民生活が困難な状況に陥ることです」と松井市長。そのため京都市が重視するのは、観光の「質」の向上と市民と観光客の関係性の再構築だ。
宿泊税の大幅引上げ:観光収入を文化振興やまちづくりに還元し、市民にとっても観光客が「仲間」であると感じてもらう
市バスの市民優先料金:観光と生活のバランスを政策で調整
分散型観光の推進:有名観光地だけでなく、暮らしの文化に触れる体験を提案
また、観光ゴミ対策にも独自の工夫がある。自動圧縮型のゴミ箱を民間からの寄附で導入し、地元商店街と市が連携。民間の連携でゴミの容量を把握し、回収車が最適なタイミングで巡回する仕組みだ。松井市長がその成果をパソコン画面で示すと、フィレンツェ側も強い関心を示したという。
◆京都市長のフィレンツェ出張報告:さらなる詳細はFacebookで
今回のブログでは、松井孝治京都市長のフィレンツェでの公務の一部を抜粋して紹介した。松井市長のFacebookでは、より詳細な情報が日々の活動報告として掲載されている。
姉妹都市提携60周年という記念すべき年に、フィレンツェの猛暑の中、分刻みで精力的に公務をこなした市長の姿には感銘を受けた。単なる記念式典としてではなく、京都の未来を見据え、多岐にわたる分野で具体的な活動を展開したことが伺える。
市長のFacebookを見ると、その透明性の高い公務の様子もよくわかる。興味のある方は、ぜひ松井孝治京都市長のFacebookアカウントを確認してほしい。市長の活動への熱意が感じられる内容になっている。
【京都・松井孝治市長の公式FACEBOOK】
https://www.facebook.com/profile.php?id=100006126152789
ありがとうございました😊
素敵な投稿ですね💓
元報道の方だとは思わず無礼ばかりでしたね(⌒-⌒; )
また京都においでの時は是非お立ち寄りくださいね☆
田中さん、コメントありがとうございます!
工芸展では大変お世話になりました。
アート修復の聖地のようなフィレンツェに住んでいるので、田中さんの京表具の紙(ふすま等)の修復には非常に感銘を受けました。いつか京表具も取材させていただきたいです。
京都を訪れる機会があれば、お目にかかれることを楽しみにしております!
これからもよろしくお願いします(^^)